ワークスタイル05
株式会社 宝情報

残業が少ない秘訣は“身の丈に合った組織づくり”ーIT企業役員に聞く、シンプルな働き方改革

働き方改革の象徴的な取り組みとして、「社員の残業時間を減らす」ことがクローズアップされています。しかし働き方改革とは、必ずしも残業時間のみに矮小化される問題ではないはずです。事実、「働き方改革をしようと思ったことはない」と言いながらも、残業時間が極端に少ない企業も存在します。

残業時間が少ない秘訣は? セキュリティ対策製品の販売および付帯サービスの提供を主事業とし、社員25名を擁する株式会社 宝情報。執行役員の猪俣さんに同社の取り組みを聞きました。

働き方改革をしようと思ったことはない。残業時間3時間の秘訣は?

猪俣 成寿さん。株式会社 宝情報 執行役員。人材採用から労務、法務、庶務、総務、営業に至るまで、あらゆる業務に関わる。

本日はよろしくお願いします。いきなりで恐縮ですが、宝情報では残業が極端に少ないと聞きました。

そうですね、先月の残業申請で一番多かった人は月間3.7時間でした。

月間3.7時間!それはすごいですね。どうやって残業を減らしたのでしょうか。やはり全社レベルで働き方改革を推進してきたのですか?

実はこれまで一度も「残業を減らそう」「働き方改革を進めよう」と宣言をしたり、旗振りを行ったりしたことはありません。社員の働きは時間で評価できるものではなく、むしろ残業しなければならないのがおかしいと思っています。

宝情報ではもともと残業がなかったのですか?

弊社でも残業がまったくなかったわけではありません。以前、業務部の担当者の残業時間が月に20時間近くとなり、「これは大問題だ」となりました。

月に20時間って、それでもかなり少ない方だと思いますが…(笑)。どうやって解決したのですか?

解決策はすごく単純で、人を増やしました。会社は身の丈に合った仕事をするべきだと思うのです。

社員の残業が増えることを前提としなければならないような仕事は断るべきだし、受けるのなら適切にこなせる人員を揃えるために新しい社員を雇うべきというのが、弊社の基本的な考え方です。

もちろんリーマン・ショックのような不測の事態も起こり得るわけで、仮に売上げが30%急落した場合でもやっていけるかどうかを綿密に計算したうえで適正な人数を採用しています。

1年半で10人を採用。大切なのは”身の丈に合った組織づくり”

会社にとって受注が増える、すなわち仕事が増えるのは喜ばしいことですが、そのしわ寄せが社員に及んだのでは意味がないと?

はい。当然、どんな会社にもチャレンジはあります。弊社では「情報セキュリティサービスの技術商社になる」というビジョンを掲げてチャレンジしており、実現のためには一人ひとりの社員の頑張りが欠かせません。

ただ、身の丈以上のことを会社が強制しても決して良い結果は出ません。体制も整っていないのに「あれもやれ、これもやれ」と社員に仕事を押し付けても、結局は何ひとつ身に付きません。

そうではなく、現場から「これをやりたい、あれもやりたい」という声が上がってくる方が会社としては理想だし、最短距離で成功に近づくことができると私は考えています。

実際、宝情報ではどれくらいのペースで社員を増やしていますか?

私が入社してからの1年半で新たに10人の社員を採用し、全社25人の体制になりました。

話が前後しますが、私が執行役員として入社したのは、UTM以外のセキュリティ対策製品事業も会社の柱に育てていこうと経営の舵を切った時期にあたります。

ただ、取り扱い製品のラインナップをどんどん拡大していきたいと考えているにもかかわらず、当時の社員はわずか15人。

「このまま既存の体制で突き進んだら、お客様に提供するサービスの品質は一気に低下し、会社は間違いなく破たんしてしまう」ということは目に見えていました。そこで、まずは体制を整えようということで、異例のペースで採用をしたのです。

“身の丈に合った”とは、そういう意味なのですね。社員を増やした結果として、現在のビジネスの状況はいかがですか?

お客様サポートと技術チームに対する評価は確実に上がったと言えます。

営業部も技術部門との連携が早くなり、お客様への迅速な対応ができるようになったことから、お客様から新たなお客様をご紹介していただくケースも増えており、事業は順調なペースで推移しています。仮に15人体制でやっていたとしたら、現在のような成長はとても考えられなかったと思います。

社員の幸せを整えることが組織力の向上につながる

短期間に新たな社員を10人も入れるとなると、さまざまな価値観が一気に入り込んでくるため、当初はかなりの混乱もあったのでは?

いや、混乱はほとんどありませんでした。というのも、その点は面接でしっかり見極めましたから。経歴や能力もさることながら、弊社社長の宝玉昭彦が描いているビジョンに共感してくれる人物を選んで採用しています。

また社員に関しては、弊社をキャリアの通過点にするのではなく、「長く働いてほしい」という思いで接しています。そのためにも、社員が頑張れるような環境を会社が率先して作ることを意識しています。

社員の幸せを土台に築いてこそ、会社が成り立つという考え方なのですね。

そう思います。スポーツでもそうだと思いますが、結局のところ“会社の力”とは社員個人の力の総和なのですから、一人ひとりの生活が充実していないと組織を活性化することはできないと感じています。

ツールを活用してミスの削減と業務の効率化を実現する

宝情報様の場合は、すでに残業を良しとしない「風土」があることがわかりました。一方で、いくら残業を良しとしない風土があっても、日頃から効率的に仕事ができる環境でないとそこまで残業は少なくならないと思います。何か秘訣はあるのでしょうか?

社員のミスを減らすことに注力しています。私自身、ミスした社員を絶対に責めないことを心がけていて。

たとえば「お客様への連絡を忘れた」「宛名を書き間違った」といったミスはどんな人にも起こり得るもので、本人を叱責しても萎縮していくばかりです。

そうではなく、「ミスが起こった原因は何か?」「業務のやり方を変えてはどうか?」「ツールを活用できないか?」と話を進めたほうが、はるかに建設的です。結果としてミスを減らすことができれば、仕事の効率が上がり、さらなる労働時間短縮にもつながっていきます。

ミスを減らすことに関しては、徹底的にツールを使いますね。

人を正すのではなく、ツールで機械的にミスを防ぐということですね。具体的にはどんなツールの活用をしているのでしょうか?

業務改善プラットフォーム「kintone」で販売管理の仕組みを構築して、営業活動に関する正確な情報は得ていますね。

kintoneで構築した売上管理システム。最新の売上情報が自動で集計される。

以前は販売店ごとに売上のExcelファイルを作っていたので、集計に手間がかかりミスも多かったのですが、販売管理をツールに任せるようになってからは、正確な売上がリアルタイムで見れるようになりました。

kintoneはドラッグ&ドロップで自由にシステムを作れるサービスですよね。SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)などのパッケージを導入することは考えなかったのですか?

パッケージを導入しても、弊社の身の丈に合うかどうかはわかりません。カスタマイズしようにも、そもそも会社の基本的な仕組みが整っていないなかで要件定義を行うのも困難です。

トライ&エラーを繰り返しながら、社員自身で自由に改善していけるクラウドベースのサービスがベストと考えました。そんな思いから逆算してたどりついたのがkintoneでした。

kintoneではどんな効果を上げていますか?

kintoneを導入したことで、各販売店の売り上げがリアルタイムに共有できるようになり、集計やレポート作成の時間を月間20時間以上削減できました。また、既存の販売店への訪問履歴やライセンス期限も共有できているので、素早く情報を把握できるようになりました。

また、kintoneで資料共有も行うことで、似たような資料づくりに追われる無駄な時間も削減しました。社内資料のフォーマットやレイアウト、フォントまですべてを統一し、新しく作成した資料は必ずこの基盤に登録することをルールとして、社員全員で共有することを徹底しました。

これにより、たとえば見積書を作成する際も、わざわざ最初から書き起こす必要はなくなりました。すでに誰かが作った資料を情報共有基盤から検索し、社名や金額など部分的に変更を行うだけで作業は完了します。

ファイル管理システムにも、kintoneを用いている。

弊社は3拠点あるのですが、kintoneを利用することで、異なる拠点のメンバーのコミュニケーションがスムーズになりました。拠点が離れていてもメンバーに気軽にアドバイスができたり、フォローし合えるのは良いですね。

売上の報告、同じような資料の作成…そうした無駄の排除をkintoneで実践しているのですね。

そうですね。先ほども申し上げましたが、会社が社員に仕事を押し付けるのではなく、現場から「これをやりたい、あれもやりたい」という声が上がってくる方が会社としては理想的です。

それはシステムでも同様で、「これを使いなさい」と与えられたシステムではなく、社員自身が望む仕事のやり方を社員自身が実現していくことが大切だと考えています。

そうした意味で現場にとって親しみやすいITツールを活用することは、業務改善を進めるには効率的です。これからも現場レベルで改善を重ねながら、業務の効率化を進めていきたいですね。

企業のカラーに合った、働き方改革がある

最後に、「残業が減らない」と悩んでいる企業の担当者に対して、何か一言お願いいたします。

「なぜ残業をしなければならないのか?」を考えるところからスタートすることが大切だと思います。残業には必ず“理由”があるはずです。

仕事の効率が悪いのなら、ツールを使って何とかならないのか。それでも改善しないのなら、人を増やせないのか。原因を元から絶たないと、いつまでたっても残業はなくなりません。

やみくもに「定時で帰れ」とルールで縛るのではなく、効率化のツールを活用したり、業務量に応じた人数を見直すことが必要だと思います。

宝情報様はトップダウンで業務の改善を行ってこられたと思うのですが、残業をよしとしない風土や、ツールを効率的に使う文化はやはりトップダウンで進めていくのが正攻法となるのでしょうか。

働き方改革をトップダウンで進めるか、ボトムアップで進めるかは、企業のカラーによって異なると思います。

弊社の場合は社長の人柄に親近感を抱く社員が多いので、トップダウンで社長の思いを具現化することに注力してきましたが、現場の社員一人ひとりの思いをボトムアップで汲み上げていったほうがうまくいく会社もあると思います。

企業のカラーに合った改革をしていくことが大切ですね。