コロナ禍に給付があった、国の特別定額給付金のオンライン申請を、前市長自ら実体験したことがきっかけでした。「国でできるなら市でも取り入れよう」と、市の手続きもオンライン化を進めることになり、庁内外の組織体制を組み立てて2020年10月1日設置に至りました。

当時は“DX”という言葉さえ聞いたことありませんでしたが、設置の目的を具体化させていく中で、住民サービスと行政、地域を三本柱としてデジタル変革を進めることとし、その中のひとつとして、“行政手続きのオンライン化”を打ち出しました。

前市長としては、内部は徐々にシステム化しているけど、それが市民のサービスに直接つながっていないのでは？というジレンマをずっと抱えていたみたいです。

もっと住民目線でサービスの提供をしていきたいという思いもあった中で、自ら便利さを体感したことがDX室設置につながりました。

庁内で運用していた、パッケージシステムのブラックボックス化が問題になっていましたね。具体的に、システム改修については年度や制度、組織が変わるたびに行う必要がありました。

ただ、改善要望を業者に投げて、上がってくる見積書を見たところで、その際にかかる費用や作業に対してかかる時間について、我々では妥当なのかが判断ができない状態だったんです。

庁内でシステム導入が進んだ平成の時代から言われていた問題でした。ただ、すべてのシステムのブラックボックス化を解消することは現実的ではありません。そこで、まずは業務の切り分けを行い、部分的にでも、職員でも簡単に改修できる柔軟性のあるシステムに変えていきたいと考えました。

使い勝手やネットワークの関係上、どうしても使用不可欠な業務はパッケージシステムになります。とはいえ、バックヤード業務や関連業務など、パッケージシステムでは手の届かないところや、オンライン申請を進めていくために使用するツールは、ホワイトボックス化されたツールで行うことにしました。

当時、雑誌などでkintoneのことは認知していましたし、偶然サイボウズ営業の鈴木さんと面談できる機会もあり、話を伺った上で要件に合ったツールと感じたため、導入に至りましたね。

全庁的には副市長から発信してもらいました。その後、原課^※にて手続きの一覧をすべて出して、オンライン化できるものとできないものを分けてもらい、オンライン化できるものについては、目標時期を定めて、計画的にオンライン化しています。

実際はいろんな課から、紙運用からオンラインへの過渡期が予想されることに対して不安の声もありました。ですが、オンライン化を進めるためのアプリ作成については、DX室が手厚くサポートすることを発信し、職員の不安解消に努めています。

はい、基本的にアプリ作成は原課で行なってもらい、あくまでDX室は基本的な作成方法の説明や、構築に関するアドバイスをする、という形でサポートに徹する、というスタンスです。

ただ、私自身もITの知識がないところからkintoneを触り始めたので、使いこなせるかどうか不安な気持ちやサポートの必要性はとても感じていました。ですが、勉強すればアプリを簡単に作れることが分かっているので、kintoneの良さを伝えつつサポートに徹しています。

具体的には、ガブキン^※サイトを参考に、職員へ活用を呼びかけたり、オンライン化の期限を守ってもらうために、こちらから「一緒に作りませんか？」とこまめに声がけしたり、積極的に個別相談にも乗りました。投げっぱなしにするのではなく、意識的に手厚くサポートすることを心がけましたね。

1番最初に作成した、定期船予約システム^※については、私の方で最初から最後までアプリを作成しました。定期航路事務所から相談をもらったのですが、優良事例を作りたいという気持ちと、kintoneの理解を深めるためにも引き受けた形です。

今はもう完成し運用していますので、定期航路事業所の方にシステムの構成を説明して、アプリ修正などはそちらでしてもらっています。アプリ化できたことで申込管理が楽になっただけでなく、以前より電話での予約が減っているとは聞いていますね。

現在使用しているスペースの1つは、酒田市産業振興まちづくりセンターサンロクが市内在住の女性のITスキルを上げて収入を増やすことを目的に活動支援をしている、サンロクIT女子^※の方々と連携するためのものです。

アプリ作成については原課にて行なっているとご説明しましたが、そこまで手が回らないというケースもあります。その場合に、サンロクIT女子の方に、アプリ作成の支援をお願いしています。ゲストスペースは、実際に作ってもらったアプリを確認するためのアカウントですね。

そうですね、サンロクIT女子の方々の活躍を支援する1つのツールとして、kintoneを通じて酒田市の業務に関わってもらっている、という感じです。技術を身につけてもらうことで活動の幅が広がるので、いろんな業務を請け負えるようになりますからね。

サポート体制として、スマホやLINEの使い方教室を開始しました。また、市内にある様々な団体に対して、活動の一環でそういった教室を開きたい方に講師を紹介したりしています。あとは、市役所にスマホの相談窓口を開設して、わからないことはなんでも相談できる場所を設置しましたね。

市に対する自由な意見を募集している目安箱に「１階のスマホの相談窓口、来年度も続けてください」と入っていて、思っていた以上にニーズがありますね。

kintoneに関しては、基本的には自分達で作っていますので、システムのブラックボックス化は解消してきていると思います。

修正方法がわからない、という問い合わせもありますが、私が勝手に直すのではなく、方法をお伝えして原課にて修正してもらったり、一緒に直したり、という形にしていますね。“自分達で直せる”というのは1番大きいところだと感じています。

改修コストの面でも、業者に依頼して直してもらう、ということがなくなったので下がったと思いますし、改修に対する心理的ハードルも“自分達で直せる”ことで下がったように思います。

次年度からは、市民の方々に向けた手続きのオンライン化に加えて、デジタルツールを使って職員の負担軽減も実現していきたいですね。

人口減少に伴う職員の減少がある中で、細分化している申請関係に対して1人1人丁寧に対応していく必要があります。ただ、今までのアナログな方法だと職員はその分多くの時間を割くことになり負担ばかりが増えてしまうので、デジタル化によって少しでも業務負担を軽減して、より市民に対して丁寧な案内ができる環境を整えたいと考えています。

そのために、DX室では相手目線というのを大切にして、自分達が楽になって良かったじゃなくて、市民や職員に喜んでもらえるようなサポート体制を組んで、いろいろと動いているところです。

デジタル化の言い出しっぺはDX室ですが、相手目線できちんとサポートしていくことで、みんなから少しずつ分かってもらえてきて、だんだん協力が得られるようになったことで、今この状態まで来ていると思うので、今後も続けつつ職員の負担軽減を実現していきたいと思います。

テイクアウトを実施している店舗の情報を、kViewer(ケイビューワー)^※を使って市のホームページから公開しています。今までもホームページ上で公開はしていたのですが、検索性が優れておらずなかなか見てもらえないため、交流観光課から相談がありアプリ作成に至りました。

以前はすべて電話で受け付けていましたが、新規登録だけでなく内容の修正についても店舗側で行うことができる仕組みを構築しました。フォームブリッジ^※から情報を登録してもらい、その情報を交流観光課がkintoneで確認でき次第、“公開”に変更し保存すると、kViewerにも反映されるようになっています。

店舗側には、ユーザー名とパスワードをつけたURLとQRコードを記載した文書を送っていて、そこからログインしていただくようにしていますね。ご自身で登録できない場合には電話での登録や変更も受け付けています。

はい、以前に比べて登録数が増え、修正についても店舗側からしてもらえるようになったと交流観光課から聞いています。オンライン化を進めるにあたって、kViewerとフォームブリッジ、プリントクリエイター^※についてはkintone導入当初より活用しています。

人事課で管理している採用申し込みを、ガブキンコミュニティで入手したテンプレートを元に、修正を加えてアプリ化しました。こちらでもkViewerとフォームブリッジを連携させていますね。オンライン化したことによって、受験票の送付業務がなくなったので手間やコストは削減できたと思います。

アプリ化できたことで業務フローの見直しにつながった例として、災害情報の整理簿があります。

庁内部で使用しているアプリで、有事が起こっていない現在はオープンしていませんが、kViewerに公開されている災害情報を元に、対応部署や、現在の市の被害状況、災害対策本部から各部署への指示内容を確認することができます。

庁外に公開しているアプリとしては、避難所開設情報があります。現在は全て“未開放”ですが、有事の際には、避難者数や収容人数、あと何人避難できるかをkViewerで公開していて、さかたコンポ（酒田市公式LINE）から確認できるようにしています。

今までは、避難所連絡員からの電話などでの報告を、ホワイトボードに手書きで反映させる形の運用でしたので、自分達で情報把握することも、災害対策本部に報告することも大変でした。

アプリ化したことによって、避難所連絡員が各自フォームブリッジで報告し、その内容がkViewerに自動的に反映されるようになったため、すぐに最新情報が分かるようになったと思います。