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企業情報
■会社名:
株式会社山崎文栄堂
■ホームページ:
http://www.bun-eidou.co.jp/
■利用製品:
- サイボウズ Office on cybozu.com
- サイボウズ メールワイズ
■利用人数:36名
■業種:卸売業
- 会社概要
- 業界再編の波を乗り越えるため、二回も経営戦略を180度転換
- 徹底が生み出す会社の強さ
- 売り物は文房具ではなく「自分たちの仕事の進化」
- 「誰でもできること」を誰より早くやれば、それは「誰にもできない」強みになる
株式会社山崎文栄堂
代表取締役社長 山崎 登 氏
営業本部長 若狹 謙治 氏
渋谷の30人の文房具屋さんがクラウドを導入する理由とは?
全員経営で、お客様のニーズをどこよりも早く、詳細に収集し、徹底して共有、議論する。山崎文栄堂は、たった32人しかいない渋谷の文房具屋であるにも関わらず激戦区でもトップシェアを維持し、さらに伸ばし続けている。
一見、当たり前の経営方針ながら、それを徹底する努力は当たり前のレベルではない。そして情報共有のスピードと徹底を実現するためにクラウドを導入することは、山崎社長にとっては必然の流れであった。
業界再編の波を乗り越えるため、二回も経営戦略を180度転換
経済産業省の主催するIT経営百選で最優秀賞を連続受賞している山崎文栄堂。クラウド活用を取材するためにオフィスへお邪魔した取材陣の目に飛び込んできたのは、会社の廊下、階段、そしてオフィスの壁中に貼られたグラフや表や書類の数々。意外にも超アナログ的な風景である。
「インプットはデジタルで。アウトプットはアナログで。これがうちの方針なんです。情報の共有は対面が大切。飲み会すら全社員が強制参加なんですよ。」(山崎文栄堂 山崎登社長)
厳しい経済環境の中にあっても、山崎文栄堂の業績は順調である。2011年12月は前年比114%伸長で過去最高の売上を更新、代理店中全国6位の実績を誇るアスクル事業は、渋谷でのシェアが34%にも達している。
その強さの秘密は対面営業。特に事務用品を扱う企業として異例の「経営者に入り込み」「仕事のやり方の進化を提供」しているところにある。
代表取締役社長
山崎氏
山崎文栄堂の今のビジネスモデルは、すんなり確立したものではない。業界再編の荒波に揉まれて、むしろ180度にも近い経営方針の転換を2度も経験している。
現社長の山崎登氏が子供の頃、「文房具屋の息子として、友達に知られていた」と語るとおり、山崎文栄堂はその社名通りの町の典型的な文房具屋さんだった。
十数年前、大型ショッピングセンターやコンビニエンスストアの急拡大により、3万店あった文房具屋さんが7000店にまで減る中、最初の危機を救ったのがアスクルの取り扱いであった。
インターネットでの通信販売などまだ無い時代、倒産寸前だった会社に入った現在の山崎社長は、銀行からかき集めた最後のお金で、文房具の通販という当時では斬新な販売モデルに賭け、そしてそれが功を奏して最初の危機を乗り切った。
アスクル事業の成功により、得意先数が数十倍もの数に膨れ上がっていたが、管理体制は旧態依然のまま。下がる客単価と増える事務作業に社内は疲弊していたところにインターネットの普及による業界再編の第二波がやってきた。
Amazonなどネイティブインターネットのビジネスモデルの登場である。
それまででも下がっていた客単価がさらに下落、その上純粋なネット販売ではサービス上の利便性も向こうのほうが高い。じりじりと下がる業績を見つめながら、山崎社長は考えた。
「事業としての大きさやコストダウンの努力でAmazonなどに立ち向かうのは無理だ。町の文房具屋の強みはやはりお客様との繋がりに尽きる。お客様との繋がりにITを活かした新しい町の文房具屋をつくろう。」
こうして、今に繋がる訪問提案重視の地元密着型ビジネスが再スタートした。
徹底が生み出す会社の強さ
「いいことは強制して徹底するんです。いいこととわかっていても、なかなかやれないのが人間ですから」
山崎社長の話を聞くと、1分に1回は「徹底」という言葉が出る。職場の不満の多くは「不公平感」に起因すると考える山崎氏は、その解決策を「全員に徹底」に求めてきた。
不公平感は、「一部の人だけがやっている」「自分だけが知らない」の二つの理由から起きる。
整理整頓一つをとってもそれは言える。
整理整頓が大切な事でそれを行うのはいいことだとは、誰もが考えることだ。しかし実際に「やろう」となると、やる人が限られる。せっかくいいことを実践しようとしても、そこで不公平感が出てしまえば「いいことを率先してやると損をする」感情が植えつけられてしまう。
そこで山崎文栄堂では、チェックシートを使って「いいことの実行」を徹底する。朝の9時から9時半は全員で掃除、遅刻は罰金制、サイボウズももちろん全員強制。例えば、サイボウズのスケジュール入力で10日後までスケジュールが入力されているか定期的にチェックしている。
チェックするのは社長自身。しかも、このチェックシートの評価が賞与の3割を占めるというから、その徹底ぶりのほどがわかる。
「不徹底は不良と同じなんですよ。工場では当たり前のようにやっていることがオフィスではできない。そんなはずないんですよね。工場の不良を無くすのと連絡の不徹底を無くすのは同じことだと思います」
「徹底」は行動だけではなく、ジョブローテーションまで及ぶ。
専門知識が必要とされ、一般の会社ではあまり人事異動の対象とされない経理でさえ、一年交代だ。
グループウェアの管理を行なっている情報システム担当も、専門知識のない社員が交代で担当する。
もちろんジョブローテーションを徹底するためには、最初のスキルの有無に左右されない仕組みが必要であるから、経理の知識がそれほどなくても経理ができるようにフォーマット化されている。
そのフォマット化はまさに工場といったレベル、一年交代で人が代わるにも関わらず、山崎文栄堂では月次決算が一日で完了する。
社内システムをクラウドへ移行することも、このジョブローテーションをやりやすくする仕組みの一翼をになっていることは想像に難くない。
「大企業は一部の優秀な社員の力で、残りを動かすこともできるかもしれない。けれども中小企業は全員経営なんです」(山崎氏)
強制や徹底という文字に拒否感を感じる人もいるかもしれない。
しかし、強制したり徹底したりすることは「いいこと」に限られる。「いいことをみんながやる不公平感がない職場」は一つの職場の理想形であるから、その効果を実感すると社員は次の「いいこと」を自分で探し出すようになってくる。
自分の提案が採用されれば、それは職場ですぐに根付き、会社が変わったことを自分が実感でき、大きなやりがいに繋がってゆく。だから山崎氏は「徹底」にはこだわるが、やり方は現場に任せて社員の自主性を引き出すようにしている。
「いいこと」を拾いあげて「全員に強制」する。次第に社員が新しい「いいこと」を見つけてゆくようになり、それがまた職場にすぐに根付いてゆく。全員経営の業務プロセス改善がいち早く進んでゆく理由がここにある。
売り物は文房具ではなく「自分たちの仕事の進化」
2年前、山崎文栄堂のアスクルにおける渋谷地区でのシェアは10%程度、それが34%にも躍進した理由は、顧客への優れた提案にある。
文房具に代表される事務機器では、営業を行う相手は総務や調達の担当者どまりであることが一般的。しかし山崎文栄堂の営業マンは経営者に直接アプローチして成功を収めている。その提案は、実は前述の「徹底」から生み出されてくるものだ。
山崎社長が自社のオフィスの改善に拘る理由が実はここにある。自分たちが心の底からいいと実感しているオフィス環境をお客様に提案してゆくことで経営者の琴線に触れることができるのだ。
「整理、整頓、清潔、礼儀、規律。当たり前なんですが、こういった環境がきちんと整っている会社は強い。自分たちがそれを徹底して実践して、心からいいと思ってお客様にも見せてあげることで、経営者に入り込むことができるんです」(山崎氏)
つまり山崎文栄堂が売っているのは文房具ではない。職場の進化そのものなのだ。ジョブローテーションを経験した社員がその体験を語り、その過程で自分と会社が進化した経験こそが何よりのソリューションとなる。
ジョブローテーションでの徹底で言えば、経理のオフィスの壁には、全員の名前と共にその取得スキルが貼り出され見える化されている。
そこには「卵」「ひよこ」「鶏」といった付箋の形で各スキルの状況が表現されているが、これらは社員の工夫で生み出されたものだという。スキルの見える化はともするとギスギスした職場を生み出しかねないが、ユーモラスに表現することで、徹底をやる気に変えることができる。もちろん貼り出されている付箋もシールも文房具だ。
イラストで表現されたメンバーのスキル
「例えば、小さなことですが、引き出しがいっぱいついた整理ボックスに入っている文房具の欠品を無くすのに、いちいち見てまわるのは時間の無駄です。だったら無くなったよという紙を入れておくだけで欠品を知らせる行動を促せます。
でもそれでは担当者に欠品札を持ってくる手間がかかる。ならば次はそのBOXの上に欠品札を入れる小さな箱を一つ追加する。そうするとさらに時間の短縮になる。こういう社員の改善の一つ一つがそのまま商売になるんですよ」(山崎氏)
「誰でもできること」を誰より早くやれば、それは「誰にもできない」強みになる
オフィス環境の進化を徹底してやり続けることで、顧客に深く入り込む営業スタイルを確立している山崎文栄堂だが、それだけで豊富な商材とソリューションを持っている大企業や安価なネットショッピングに勝てるわけではない。業績の伸長を支えている秘訣は、「徹底」した「仕事の進化」の実行スピードがどこよりも速いところにある。
そしてそのスピードを支えているのがIT活用である。
何年か前、古紙混入率偽装問題が新聞紙上を賑わせたのを覚えている人も多いだろう。アスクルでも残念ながらこの問題が起きた。出荷停止になるという連絡が山崎社長の元に届いたのは前日の夕方。すぐさま山崎社長は全員を集め、「サイボウズ Office」の掲示板で刻々と変わる状況を共有しながら、顧客対応共有ソフトである「サイボウズ メールワイズ」を活用し、手分けして主要顧客すべてに電話してお詫びと説明を行うことで、半日もかからずに全てのお客様のフォローを終えた。結果として解約はゼロ、逆に「お客様に迅速な対応に対するお褒めの言葉をいただき逆に業績が上がりました」(山崎社長)という結果となった。
そして未曽有の東日本大災害に見舞われたときも、そのスピードは遺憾なく発揮された。
「社長は島根県に出張で、そのときはいなかったんですよ。もちろんメールも電話も通じませんでした」(営業本部長 若狭氏)
若狭氏は都内ではあるが、渋谷から遠く離れたところにいて、6時間かけて歩いて会社に戻ってきた。
その間、iPhoneを使って、Twitter、サイボウズを通して社員の安否確認を行いながら、次のアクションを考えた。
「とりあえずホテル取ったんです。ラブホテルまで使って。男同士で泊まりました(笑)。お客様への対応をとにかく迅速にやろうということで、翌日に対策会議を開けるようにしたんです。そして月曜日からお客様にお電話できる体制を整えました。お客様の中には数は多くないですが、東北のお客様もいらっしゃいましたので、物流の混乱が容易に予想できる中、変わる情報を迅速に共有するようにしました。こういうときはお客様に正確な情報を早くお届けすることしかできないですから。」
営業本部長
若狭氏
会議だけではない。土曜日中には、「サイボウズ デヂエ」を使った「お客様からの問い合わせ状況」データベースを作成した。土曜日といえば他の会社では社員がようやく家にたどり着いて、殆どの会社では安否確認も完全に終わってない時期。山崎文栄堂の情報共有を徹底するスピードがいかに早いかがよくわかる。
そして、主要顧客1200件への電話を月曜日と火曜日のわずか二日間で終えたのだ。
「アスクルの出荷・配送状況もリアルタイムで変わってゆきますから、それはサイボウズ Officeの掲示板で共有してゆきました。商品流通とか納期なども含めてお伝えし、クレームはたったの1件でした。」(若狭氏)
10年来使ってきたコラボレーションツールであるサイボウズ。
前述のスケジュールチェックをはじめ、電子ワークフローの徹底など、「全員が常に使うシステム」として根づいていたからこそ、ここ一番の時に力を発揮するのであろう。
もちろん、サイボウズ Officeのクラウド版が出るという案内を聞いた時も、クラウド化への判断は瞬時だった。
「スピード、コスト、セキュリティ、この3点を検討してすぐに結論が出ました」(山崎氏)
若狭氏の試算では、従来のサーバーを社内において管理する場合に比べて、毎月のコストが2万5千円以上ダウンするという。年間およそ30万円だ。社員数で割ると一人1万円、小さい額ではない。
そして、セキュリティについても、標準機能によって、ベーシック認証とグループウェアの認証を併用して強化を図れることが確認できた。
しかし、なにより山崎氏が気に入った点は「スピード」である。
「いつもだったらみんなが繋げることでどうしても遅くなってしまう時間帯があるんですが、その時間でもビュンビュン早いんです。とにかくうちはスピードですから」
ここまで山崎氏がスピードを重視するのは、モバイルの活用の仕方が極めてクラウド的だからだ。
「インプットはデジタルで、アウトプットはアナログで」をスローガンに「お客様のお役立ちを提案する」山崎文栄堂では、お客様のご要望を迅速に集め、全員で共有することは戦略の根幹に繋がる部分になる。
このため社員全員はスマートフォン(iPhone)を持ち、社員によってはタブレットやノートPCと自分のスタイルにあったあらゆる携帯端末からサイボウズへアクセスして、日報や報告書、データベースの形で情報を放り込む。
「毎日書いた日報が経営戦略」と言い切る山崎氏のもとへ現場の情報を即座に上げるポンプの役割を果たすのに、クラウドほど便利なツールはない。
「もちろんデータは毎日見て参考にします。そして大事なことはアナログで共有するんです。幹部会議報告で、マネージャーが日報を集約してお客様の声などの定性データを報告して、それを私を含めてマネージャー全員で共有することを徹底します。アナログで共有することは、手間暇はかかるんですが、トップやマネージャーがどれくらい思いを持つかはそこにかかっていますからね。」
アナログで共有された様々な情報
「スケジュールの電子化」「顧客との対面時間を増やすためにIT活用」「データを分析して戦略へ繋げる」いずれもどの会社でも言われるIT活用の目的であり目標だ。
しかし、IT活用が企業戦略の中に組み込まれていなければ、電子化したスケジュールはただの「便利」で終わり、直行直帰を増やすだけで収益には結びつかず、分析したデータは経営者の自己満足で終わってしまう。
クラウド化も、端末の多様性も、使用の徹底も「情報集約の徹底とスピード化」を目指してものものであり、そのスピードが会社の強みとして戦略に組み入れられていることが、渋谷の30人の文房具屋が激戦地区で生き残ったばかりではなく、並み居る強豪を押しのけて躍進を続ける理由であろう。