ワークスタイル02
丸紅従業員組合

総合商社の働き方は変わるのか?ー大組織に変化を巻き起こす、丸紅従業員組合の挑戦

1858年創業以来150年を超える丸紅株式会社。誰もが知る、5大総合商社の一角だ。戦前・戦後の日本経済の興隆を牽引し続けてきた、まさに伝統企業であるその丸紅の従業員組合が、現場に根ざした「働き方改革」に本腰を入れている。

既存の常識を覆す破壊的創造が次々と起こる大きな環境変化の中、硬直的な働き方から脱却しきれていない現状に危機感を募らせるがゆえの現場発の改革にかける「本気」。まっすぐに前を見据えて語る彼らの、改革にかける思いとは。

5大総合商社の丸紅。典型的な大企業で働き方改革は果たして可能なのか

日本を代表する「5大総合商社」の一つである丸紅。典型的な日本の大企業で、働き方改革なんて、本当に可能なの?ーそんな懐疑的な気持ちをいだいてしまうのはたぶん、創業以来150年以上と気の遠くなりそうな伝統のせいだけじゃない。

丸紅本体だけで従業員4500人、グローバルを含むグループ連結では4万人、年間連結純利益1500億~2000億円という、「巨大」な組織規模ゆえだ。

実は、サイボウズと丸紅のオフィスはいま、同じ東京日本橋タワー内にある。その丸紅の従業員組合が働き方改革に乗り出す中でサイボウズの先進的なワークスタイルに興味をもち、「働き方改革について教えて欲しい」と、なんとサイボウズへ直接電話をいただく「まさかの飛び込み営業」で、3度のサイボウズへの訪問とワークショップが実現した。

サイボウズに訪問し、ワークショップを行った日の様子。「社内向け業務が多い問題」「紙、判子文化が根強い問題」など4つのグループに分かれて解決策を話し合った

セミナー後のフィードバックをレポートとして送ってくださったのだが、その内容は衝撃的だった。

「これまでの旧態依然とした働き方に対して明確な危機感を持っていなかったことを認めざるを得ない」

「丸紅にいる一社員として危機感が欠如していないか、現状を肯定も否定もせず見て見ぬふりになっていないか、制度や慣習に縛られて目的を見失っていないか、もう一度胸に手を当てて考えていきたい」などの強烈な危機意識が赤裸々と現れており、サイボウズ側がびっくりするほど丸紅からの参加者は「本気」だったのだ。

安倍政権肝いりの働き方改革が経団連でも課題としてのぼったのはわかりますよ、でもホラ、日本の大企業は働き方改革なんてありがた迷惑と思っているんじゃないかって論調もあるくらいじゃないですか。大商社の組合さんが、なぜそこまで本気の働き方改革に乗り出したんですか?

縦割り組織を打破することはできるのか

左:植松 慶太(うえまつ けいた)さん。丸紅従業員組合中央執行委員長。右:小澤 悠(おざわ ゆう)さん。丸紅従業員組合 副書記長

丸紅従業員組合中央執行委員長・植松慶太さんは、「大企業病の症状が見て取れるんです」と、世の中の変化に一番敏感であるべき商社が、組織として硬直化していくことへの危機感を話し始めてくれた。

総合商社とはそもそも全産業にまたがり商流の中に生じる需要と供給のギャップを埋める形で稼ぐのが存在の意義であり、取引先や社会のニーズに変化が生まれれば自分たちもその変化に適応して稼ぐ仕組みを新たに構築するのが商社の醍醐味でもある。

だが一方で、商社は「食品や石油や鉄鋼や化学品といったように、効率的に稼げるよう一つ一つの商材や産業セクションに集中して取り組めるような商品分野タテ割りの組織作りをしてきたので、厳然としたセクショナリズムがある。

それぞれのタテの壁を越えた連携は容易ではなく、結局は各部署で自己完結するようなビジネスが中心となっているのが現実」なのだという。

総合商社だからこそ、ビジネスでも会社運営でも組織横断的な取り組みが必要なのは誰よりも理解しているが、それでも打ち破れない。他商社も同じ悩みを抱えているという。

働き方改革は手段に過ぎない。画一的な集団から抜け出し、新しい価値の提供を目指す

植松さんはこう続ける。「働き方改革は、組織改革の一つであり、象徴です。働き方改革が目的化している会社が多い中で、僕らはタテ割り組織の土壌を変える手段の一つとして捉えています。

昨今、取引先の各業界は複合的、横断的なソリューションを求めてきているのにもかかわらず、僕たちは総合商社としてその期待に十分には応えられていない。

組織間の垣根を超えて、今までのネットワークや知識を組み合わせ、新しい価値を提供していくためには、社員一人ひとりが、組織を重んじる内向き志向に陥ることなく、マーケットやトレンドを重んじる外向き志向を持ち続けなければならない

その組織改革に欠かせないもの、それが多様性であり、多様性を受容する「働き方や評価のあり方」だった。

植松さんは続ける。「大手商社は、残念ながら未だに画一的な人材の集団です。画一的な集団からは、画一的な発想しか出てこない。外国人や専門性の高い人材・女性やシニアなど、あらゆる多様性が必要なのに、彼らを受け入れられる土壌がまだまだ十分とは言えないんです」

成長実感やワクワク感、自己実現のチャンスを感じる機会はもっと増やせる

「もちろん社内には付加価値の創出に資する、働きがいのある部署はたくさんあります。一方で、社内向けの報告や調整業務に多くの時間を割かねばならない現実もあるんです」と植松さん。

丸紅にはもともとワクワク感や社会に対して大きなインパクトを残したいと求めて入社してくる人が多い。だが社会的な価値の創出をしたいと思って入社した優秀な人材が、社内向け業務に忙殺されている。

現場社員を巻き込み、丸紅の真の働き方を考える部会を設立

紅ハタ部会でサイボウズを訪問した時の集合写真。

2017年4月、二人は従業員組合役員と丸紅本体の現場社員との計40人弱で、丸「紅」の「はた」らき方改革を考える「紅ハタ部会」を創設した。

サイボウズがワークスタイルを考えるときの基本姿勢である「制度・風土・ツール」のアプローチを念頭に、関連部署へ働きかけながら向こう2年間で一定の結果を出すのが目標だ。

丸紅では生産性の向上を目指した働き方改革が推進されており、これまでも朝型勤務の推奨(朝食の提供)や20時以降の残業禁止、ITモバイルツール・インフラの導入、オフィス環境の整備、現場組織が自律的に業務プロセス改革を推進する組織体質改善プロジェクトなど、世間一般から見れば先進的ともいえる取り組みを行っている。しかし、それらの定着は、大組織ゆえ一筋縄ではいかず、まだまだ道半ばという状況。

その一方で、会社本体の職制から離れ、丸紅の全従業員4500人のうち、2700人の組合員で構成される「組合組織」は、大きく3つの強みを持っている。1)現場の声を吸い上げ集約できること、2)経営に対し提言できる立場にあること、3)新しい制度・施策・ツールをまるで「ラボ」のように、スピード感を持ってトライアル出来ることである。

このラボでは従業員への裨益効果を検証しながら、ICTツールを活用したテレワーク、サテライトオフィス活用などベンチャー並みのスピード感と身軽さで次々と社内“初”を従業員組合発信で実現させていこうとしている。

年齢や職制に関係なく、大企業は変えられる

最後に聞いてみた。そこまでして「丸紅をよくしていきたい」という前向きな気持ち、何がその熱意の原動力なのか。

入社5年目の小澤さんは言葉を選びながら、こう話してくれた。「もともと、商社に入ったのは、何か大きなことをしたい、ビジネスを動かしたいという、ワクワク感を求めてのこと。僕がサイボウズの訪問記事を社内システムに掲載したら、たくさんの好意的なフィードバックが寄せられました。

若くても年齢や職制に関係なく、現状を打破し大きな組織を変えることができるんだ、と伝えたい。ゼロを1にしたい、1を生みたいというマインドそのものが、僕らの原動力じゃないでしょうか」

小澤さんによれば、「現場で起きていることと経営陣の課題感にはズレがある」のだそうだ。「経営陣の考え方は非常に先進的で、未来志向の行動変革を促すメッセージを強く発信しているが、現場で実際に起きていることはそういう次元の話じゃないことも多い。

まだまだ無駄と思える会議は残っているし、ipadで資料共有ができるにも関わらず、会議で大量の資料を印刷しなければいけないなど、現場では単純な事務作業も少なくない。そういう目の前の小さなことから取り組んでいかなければ、と感じています」

同じような大企業で、「自分が所属する組織に改革なんか起きない、大企業は変わらない」と諦めてしまっている働き方改革を推進する方も少なくないだろう。そんな彼らにエールを送るとしたら?

「小さくても何かを始めることが大切。初速ゼロでも前に転がりだしたら組織は動きはじめる。若手でも大組織でやれることが沢山ある、もがくことができる、と信じてほしいです」(小澤さん)。

その言葉は、大企業である丸紅の次世代を担おうとする、彼らの決意のように聞こえたのは、きっと気のせいじゃないだろう。