ワークスタイル13
株式会社ハヤシ海運

ストレスのない作業環境を目指した自社ビルが竣工――新拠点からペーパーレスとIT化を成功させた秘訣とは

働き方改革を進める上では、仕事に対する一人ひとりの意識を変え、新しい「風土」を創造していくための環境づくりも大切です。ハヤシ海運グループは和歌山、川崎、清水、堺において石油製品の海上荷役から、船舶代理店業や通関業などを一貫して手がけ、「ストレスのない作業環境をつくりたい」という社員の思いを結集し、自社ビル建設に臨みました。

この新たな拠点から同社がどんな改革を実践しているのか、社長の林さんをはじめ、経営企画部の管理職である藤崎さんと榎さん、そして総務部で人材採用を担当する青木さんの皆様にその取り組みを聞きました。

「モノを作っている会社ではないのだから贅沢はしない」という理念を、時代の変化に合わせて変えていく

林 功さん。代表取締役社長。ハヤシ海運の3代目トップとして、会社のさらなる成長に向けたビジネス戦略と改革を牽引している。

本日伺わせていただいたこちら京浜本部ビルは、「他社がうらやましがる自社ビル」「同業他社より最先端の自社ビル」を目指して建てられたとのこと。まずはこの背景からお聞かせください。

いろいろな理由がありますが、一番大きいのは「優秀な人材に入ってもらえる会社になりたい」「社員に長く定着してもらえる会社になりたい」という思いです。

弊社は1951年に創業しており、石油製品の海上荷役を中心とした海上作業から、船舶代理店業や通関業を含む船舶代理店作業までを一貫して手がけている海運会社ですが、業界全体がそうであるように、われわれも人手不足に悩んでいます。この問題をなんとかしたいと考えました。

自社ビルがなかった時期は、どんな点で人材採用が大変だったのですか?

以前の京浜本部は賃貸マンションに確保した4つの部屋に各部署が分散しており、面接などで訪問していただいた応募者にも不便をかけていました。

「果たして、この会社に入って本当に大丈夫かな?」という不安を感じる人も少なからずいたようです。

確かに人材採用において、会社の第一印象は大切ですね。

創業時からの「われわれはモノを作っている会社ではないのだから贅沢はしない」という理念をずっと守ってきましたが、やはり時代の変化とともに会社のあり方を見直していく必要があります。いまがそのタイミングだと判断しました。

新しい独身寮も建設中で、より多くの優秀な人材に「この会社に入りたい」と思ってもらえるように、職場環境や就業条件、福利厚生などの改善を進めているところです。

自社ビルが完成してからちょうど1年と聞きましたが、採用状況はかなり変わってきましたか?

大きな手応えを感じています。

自社ビルの竣工に合わせてホームページのリニューアルも行っており、そのアクセス数の伸びからも、弊社に対する関心は確実に高まっていると分析できます。

もちろんホームページを閲覧する全員が応募者というわけではありませんが、外部から弊社を見る目が大きく変わりつつあるのは確かなようです。

青木 文恵さん。総務部。2017年6月に中途採用で入社。人事の採用業務を中心に、各種採用メディアとのとのやりとりや応募者の管理などを担当する。

私が入社したのは今年6月なのですが、自分自身がこの自社ビルで面接を受けて、それまで抱いていた海運業に対する古いイメージがすっかり変わり、「雰囲気の良い会社だな」と思い、入社を決めました。

立場が変わって現在は総務部で採用担当をさせていただいていますが、まず応募者が業務内容などを事前にしっかり調べていることに驚きます。

これも弊社に対する関心の高まりと感じ、とてもうれしく思っています。

ペーパーレス化の反対勢力を黙らせたのは70歳代の会長だった

職場環境を改善するという意味で、今回の自社ビルはすでに在籍している社員の働き方改革へのチャレンジでもあるわけですね。

そのとおりです。社員の間から沸き上がった「ストレスのない作業環境」をコンセプトに、みんなで意見を出し合いながら新しい執務スペースづくりを進めてきました。

具体的にはどんな“こだわり”があるのでしょうか?

4つの部屋に分散していた経営企画部、事業推進部、総務部、経理部を1つのフロアに集めることで、部署間の横のつながりを強め、風とおしの良いオフィスに変えたいと考えました。

細かいところでは外線から入った電話をその都度内線で別の部署に転送しなければならなかった手間やストレスがなくなり、業務効率化にもつながっています。

整理整頓された広いデスク。モニタ2枚完備で業務効率アップを支援

単に社員を1カ所に集めるだけでなく、「広々とした環境で作業がしたい」という声を受けて、従来よりも広いデスク(幅120cmから160cmに拡大)や長時間座っていても疲れない椅子なども新しく購入し、働きやすい環境整備を進めてきました。

また「いつも机に座っているだけだと気分が晴れない」「午後の眠くなった時間帯にさっぱり仕事ができるスペースが欲しい」といったプロジェクトメンバーのアイデアを具現化すべく、3階フロアにカフェスペースも設け、自由に作業ができる場を確保しています。

なるほど、斬新な取り組みですね。そうするとIT環境の充実にもかなり力を入れているのでしょうか?

もちろんです。これまでは「会議を行うたびに会議室用のPCを立ち上げなくてはならない」「万が一停電が起こると作りかけのデータが消えてしまう」といった課題を抱えていました。

そこでSIパートナーの大塚商会に依頼し、会議室に個人のノートPCがすぐに接続できる電子黒板を導入するとともに、ビル内どこでもWi-F接続ができる環境を整えました。

さらにビル内に限らず、「どこにいても同じ環境で仕事ができる環境が欲しい」という声に応え、すべての役員にiPadを配布したほか、2005年からオンプレミスで利用してきたグループウェア「ガルーン」のクラウド化を進めました。

そうしたIT環境の充実はどんな成果として現れていますか?

ペーパーレス化です。会議で配布する紙の資料も“ゼロ”になりました。

紙をなくすことに反対はなかったのでしょうか?

藤崎 誠希さん。経営企画部長。取引する会社との契約や交渉全般を統括するほか、ISO9001の認証取得における事務局の責任者も務める。

もちろん抵抗はありました。役員の半分くらいは猛反対だったと思います。

実はその流れを一気に変えたのが、前社長である林典夫会長の「ぜひやろう」という鶴の一言だったのです。

70歳代後半というご高齢の会長がペーパーレス化の一番の推進者とあれば、だれも反対するわけにはいきません。

それでも一部の管理職からは「これまでどおり紙で資料がほしい」という要望が寄せられたのですが、「資料はすべてグループウェアのガルーンの中に入っているので、必要でしたらご自身で印刷願えませんでしょうか」とあえて突き放しました。

そうこうしているうちにガルーンの使い方に慣れてきて、逆にいちいち紙に印刷するのが面倒になり、ペーパーレスが定着していったという次第です。

いまでは紙の資料を渡すと「いらない」と逆に突き返されるほどで、ずいぶん会社の雰囲気が変わりました。

業務改善にグループウェアが大活躍。丸1日を費やしていた議事録作成がなくなった

榎 春彦さん。経営企画部 課長。グループ全体のITインフラの整備、モバイル端末の管理、セキュリティ対策を担当。新規事業の開発にもあたる。

ハヤシ海運様の職場改善にグループウェアもお役に立っているようで、サイボウズとしてはとてもうれしいです。

決してお世辞ではなく、いまではグループウェアがないと仕事が成り立たない状況です。

私自身も和歌山本社や清水事業所などへの頻繁な出張などでオフィスを不在にすることが多いのですが、スマートフォンやiPadでスケジュールを簡単に確認できますし、承認・決裁もワークフロー機能を使ってすぐに行えます。

役員や管理職からの報告もすべてグループウェアの掲示板やマルチレポートに集まっているので、会社の動きはどこにいても手に取るようにわかります。

実はグループウェアをオンプレミス版からクラウド版に移行する際に1日ほどサービスを停止したのですが、「だれが、どこにいるのかわからない」「連絡がとれない」など、想定していた以上の混乱が全社的に起こってしまいました。

これはわれわれの反省すべきエピソードですが、それほどまでにグループウェアのガルーンは各自の業務に深く浸透しています。

現在、グループウェアはどれぐらいの社員に活用いただいているのですか?

グループ全体で約390名の社員がいますが、導入している120ライセンスのほぼすべてがアクティブに使われている状況です。

役員と管理職が中心で、業務内容に応じて個人やグループ単位でアカウントを割り当てています。

利用が一番多いのはやはりスケジュール機能ですか?

そうですね。われわれも出張が多いので、自分のスケジュールはもちろん、各地に散らばった役員や管理職同士がお互いのスケジュールをひと目で確認できるので非常に助かっています。

また社長の話にもありましたが、ワークフロー機能を使えば急ぎの申請や承認を移動中の新幹線の中からも行うことができ、加えてメッセージ機能ですぐに連絡もとれるので、業務スピードは大幅に向上したと思います。

社内コミュニケーションはメッセージが中心なのですね。

以前はメールを利用していたのですが、現在は原則としてメッセージに統一しています。

グループ内に閉じたコミュニケーション手段として利用しているため、内輪のやりとりを間違ってお客様に送信してしまうといったミスを防止する狙いもあります。

添付ファイルを関係者間で共有し、フォローのコメントを書き込んだり、内容を修正したり、共同作業のためのツールとしてもメッセージ機能は重宝しています。

それはとても興味深いです。ぜひ具体例を教えてください。

例えば会議の議事録作成にもメッセージ機能を活用しています。

事前に添付ファイルとして資料を配布した上で会議を実施し、参加メンバーがそれぞれ補完・修正した内容を集めてマルチレポートに保存すれば議事録の完成です。

以前はかなりの手間がかかっていたのですか?

会議が終わったあと、改めて参加者全員から修正内容をメールで個別に収集し、手作業でとりまとめていました。

書記役は毎月交代で管理職が務めていますが、丸1日以上の時間を取られることも少なくありませんでした。

このように重い負担となっていた作業から解放されたことは大きな前進です。

自社ビルによるストレスのない作業環境の実現、そしてグループウェアを活用した業務効率化の相乗効果により、ハヤシ海運様の働き方改革が着実に進んでいることがとてもよくわかりました。

さらに今後に向けて、どのようなビジョンをお持ちでしょうか?

われわれが目指す働き方改革は、単なる残業時間の削減といった小さなテーマではありません。

海上作業と船舶代理店作業を一貫して手がける海運会社として、何よりも「安全作業の維持継続」に努めなければなりません。

その上で「人材育成」「業務効率化の推進」「従業員の健康管理」という目標を掲げてチャレンジしています。

一人ひとりの社員の能力を育て、業界最先端の専門知識を活かし、次の世代につなげていく――。そんな企業であり続けたいと考えています。