「相手に合わせて、使う言葉も変える」ー失敗の先に見つけた答えは“トコトン現場に寄り添う”ことだった

あぁ俺、1人で作ってたんだって気付いたんです。

「では、ノートを開いて鉛筆を持ってください」この言葉で、60代のベテラン施設職員さんは、kintoneの『報告アプリ』で編集画面を表示します。「え?!そんなことが実現するの?!」って思いますよね。わたしも、「ほんとに?」と話をお伺いするまで半信半疑でした。
社会福祉士であり、医療介護業界でkintoneを使って業務改善に取り組む清水さんからは、「kintoneにログインして、『デイサービス』スペースにある『報告』アプリを表示して、『レコード詳細』画面を開いて、『編集』アイコンをクリック」なんていう小難しい言葉は一切出てきません。
「現場のために、業務改善したくて試行錯誤してるのに、ぜんぜん周りの人が協力してくれない。せっかく作ったアプリがあるのに、現場の人が使ってくれない」とお嘆きのかた、あなたの職場でもできる「ひと工夫」がきっと見つかるはずです。

清水 信貴(しみず・のぶたか)
医療法人 陽仁会 上靑木中央醫院
デイサービスセンターひだまりの郷 南前川相談員
清水 信貴(しみず・のぶたか)さん(以下敬略)
福祉系の大学を卒業後、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員として、主に高齢者分野での医療・介護業務に従事。
現場の業務をこなすかたわら、社内で直面する課題について現場の職員と一緒に日々模索し、解決策をnoteで発信している。
https://note.com/mswnet
2019年kintone認定 アプリデザインスペシャリスト取得、同年11月から、kintone エバンジェリストとしての活動をスタート。

今日はよろしくお願いします!さっそくですが、清水さんの普段のお仕事の内容を教えていただけますか?

清水さん
仕事の内容は、本当に日々同じということがなくて、デイサービスの送迎に同行したり、訪問診療でお医者さんと一緒に利用者さんのご自宅を回ったりしています。

曜日によっても全然違いますか?

清水さん
違いますね。時間帯によっても違いますし、突発的な業務が突発的に入るのが当たり前という感じです。

担当する患者さんは600名。どんどん増える。もうExcelでは管理できない

今、清水さんは、何名ぐらい担当されているんですか?

清水さん
デイサービスだけで、250名。あと“訪問診療”っていって、病院に通院できない人のご自宅に、お医者さんがうかがうサービスがあるんですけど、そこの患者さんは常に50名ぐらい。

デイサービスと訪問診療で300名・・・

清水さん
あと、施設への訪問診療の患者さんが300名ぐらい。およそ600名の患者さんをkintoneで管理しています。

高齢者向けの分野ですし、これからどんどん増える傾向ですよね

清水さん
どんどん増えますね。もうExcelで管理するのは無理です。

kintoneの導入に踏み切った。が、結果は大失敗

それでkintoneを導入された?

清水さん
そうですね。導入の時は大失敗したんですけどね(笑)

え!?だ・い・し・っ・ぱ・い・・・
具体的にどういう失敗だったんですか?

清水さん
最初、デイサービスのところをシステム化しようとしたときに、どこから手を入れようかなって考えたんですよね。で、毎日使って一番大変なところから入れようと思ったんです。

使用頻度が高くて、しかも問題がありそうなところに手を入れれば、効果が出そうな感じしますね。

清水さん
はい。「絶対効果が出るはずだ!」と思って、70代の看護師さんが使う、バイタルの保管システムを作りました。

バ、バイタル。。。(医療用語出てきた。。。汗)心拍数とか、血圧とかの管理ですか?

清水さん
そうです。それまでは、①看護師さんが利用者さんの血圧を測ってメモ帳に書く。②測定した数値を、メモ帳を見ながら、日ごとに管理している『利用者の一覧』に書き写す。③一覧に書き写したものを、利用者さんの『連絡帳』に書き写し、④利用者さんごとに管理している『月間バイタル表』に書き写す。っていうことをしていたんです。

めちゃくちゃ手書きの世界。システム化したくなる。

清水さん
しかも4時間ぐらいかけてたんです。その手書きに。
書いて、書いて、書いて、書いて、みたいな。「あ、これ見てるだけで気が狂いそうになるな」って(笑)
しかも、それを毎日やってるし、ここからシステム化したら、絶対みんな喜んでくれるっていう風に思って。

わかります。手書きから脱却したら、絶対楽になりますもんね。しかも4時間もかかってる。

あぁ、俺1人で作ってたんだ

清水さん
で、作って、発表したんですよ。「こんなすごいもの作ったぞ!明日から、これ使いましょう!」パンって打ちだしたら、思いっきり反発くらったんですよね。

え!「ありがとう」っていう反応だと思ったら、「ふざけんな!」って。

清水さん
「そんなの作ってるの、わたしたち知らないし。そもそも、わたしキーボード打てないって言ってるじゃない!」って。
今振り返ると、おごりじゃないですけれども、図に乗ってたんですよね(笑)

便利になるんだし、みんな楽になるはず。「どうだー!」ってなっても無理はないと思うんですけど。

清水さん
「皆さんが4時間かけてる仕事が、1時間で終わらせられるようになったんだぜ、すごいだろ!」みたいな感じで、プレゼンしてたんだと思うんですよ(笑)
結果、「シーンっ」て。
あぁ、1人で作ってたんだ俺」って。本当に反省しました。

使わせてやる。じゃなくて、使っていただく

めちゃくちゃ落ち込みそうですね。そのあとが気になります。

清水さん
まず、看護師さんたちが「どうして使いたくないのか?」っていうのを探っていく作業をやりました。
「だってわたしたち、キーボード打てないもん。鉛筆と消しゴムと、ゴムのスタンプでやってきてるし」って。そこで、テンキーとか考え出したんですけど。

あ!ここで、定型文をキーに割り当てる“すごいテンキー”の登場ですね。
※”すごいテンキー”について詳細はこちら

清水さん
テンキーを見せて「これでいかがですか?」って提案して、「いや、こここうしてよ」って要望を聞いたり、やり取りをして。
非常に情けない話なんですけど、そこではじめて、1人じゃなくて使う人と一緒に作ったっていう経験を得られました。

看護師さんたちの意見を聞きながら、歩み寄っていったんですね。

清水さん
システムを「使っていただく」って感じで(笑)
使わせてやるじゃなくて、使っていただく、になって。そうなると、やっぱり楽しかったですね(笑)

70代ってことは、もう相当なベテラン看護師さんですよね。清水さんの、寄り添う感じを察してくださったんでしょうか。

清水さん
はい。もう親子みたいな感じです。なので、あえて強く言ってくれたのかもしれないなって、今は思ってますけど。
いや、もう。「わたしが学ばせてもらった」っていう感じです。はい(笑)

リリースした時点では50%。皆さんと一緒に60%、70%に

そのあとも、どうしたら「使っていただけるか」というのを、看護師さんや介護士さんたちに相談しながら進めていったんですか?

清水さん
「リリースした時点で100%じゃないんだよ」って。
「これはわたしのなかで、皆さんの意見を聞いて作った50%のシステムなので、一緒に60%、70%にしていきましょうね」っていう感じでした。

今思い出しても、ぐっときちゃいます

アプリに入力する方法は、テンキー以外にも何か試されたんですか?

清水さん
音声入力を試しました
でも、もう今は、音声入力は使われてません
みなさんキーボードで打ってくれてます。ゆっくりゆっくり
音声入力でも、間違ったときは、結局訂正しなきゃいけないってことに気づいたんです。

そうか。結局、そこの手間がかかるんだったら、自分で入力して、消してって、やっていく方が早いことに気づかれたんですね。

清水さん
「修正するときには、どうせ打つんでしょキーボードで」って感じでした(笑)

清水さんからは、「キーボードで打った方が、修正するのも楽ですよ」とか、おっしゃらなかったんですか?

清水さん
ぜんぜん。まったく言わずに。です。
ある日、ふと見たら、60代の介護士さんがキーボードを使って指1本で1文字ずつ、一生懸命キーボードを打ってました。
今思い出してもぐっときちゃいます。

「自分からやってみよう」っていう姿勢に変わるのがすごいですよね。「キーボードの入力方法を教えてほしい」といった相談はありましたか?

清水さん
「小さい“や”ってどうやって打つの?」「“逆に”って打ちたいんだけど」みたいな(笑)
それで、キーボードの打ち方シートとか、ショートカットシートみたいなのを渡して、「迷ったらこれ見ながらやってくださいね」とお伝えしたりしました。

紙のマニュアルがあるとウケがいい

なるほど。入力の手助けになるものを用意していったんですね。

清水さん
あ、あと。紙のマニュアル!
新しいアプリをリリースする時は、紙のマニュアルを作ってます。
「ココを押すとこういう画面になるから」っていうのをキャプチャーで貼って。そうするとウケがいいんですよね(笑)

やっぱり紙、なんですね。

清水さん
そうなんですよね。最初、気づかなくて。それも、わたしが失敗したところで。はじめはマニュアル作らなかったんですよ。だって、「こんなのボタン押すだけだし。紙のマニュアルなんていらないでしょ」って思ってたんです。
そしたら、「なんで紙のマニュアル作らないんですか?あなたが休んでるとき、困ったらどうすればいいの?」って言われて。

清水さんが休んだら、業務が止まってしまいそうで、不安に思われたんですね。

清水さん
はい。それで、画面のキャプチャーを何枚か撮って、紙のマニュアルにしました。新しいアプリをリリースするときは、「これに従ってやってくださいね」っていうと、安心してくれるんですよね。

わたしが、あなたたちに合わせます

清水さん
介護事業のデータで出てたんですけど、医療介護業界に従事する2割のかたが60歳以上なんですって。

ほかの業界に比べると高齢のかたが多い気がしますね。

清水さん
そういう方たちって、ICTが苦手だったりするんですけど、サービスについては超ベテランなんです。
わたしは、ICTが使えないっていうだけで、そういうベテランのかたたちを排除するっていうことは、絶対にしたくないって思ってて。

たしかに。もったいないです。

清水さん
もったいないです。なので、わたしは、人をデータやシステムに合わせるってことはしないです。「わたしが、あなたたちに合わせます」っていう気持ちでやってます。

現場のかたに合った仕組みをそれぞれ、用意されるんですね。

清水さん
情報をタブレットで参照したい人もいれば、やっぱり紙で見たいっていう人もいる。
どっちのパターンも選べるようにしてるんです。

紙で見たいっていう場合は、印刷するんですか?

清水さん
タブレットの情報を毎日紙で印刷しておいて、現場に持っていきやすいように用意しています。やっぱり「紙」は切っても切り離せないんですよね。

タブレットの情報は、kintoneのアプリから持ってこられているんですねよね。今アプリの数っていくつぐらいですか?

清水さん
作ったアプリは500個ぐらいです。そのなかで、運用しているのが240個ぐらい。

すごい数ですね。どうやって管理してるんですか?

清水さん
専門職ごとにスペースで分けてるんですけど。リハビリの専門職が使うスペース、介護職、看護師。それぞれのスペースの中に、それぞれの専門職が使うアプリがまとまっているという感じです。

運用しているアプリだけでも240個。多いですね。

清水さん
多いです。それだけ、検査したり管理したりする項目が多いんです。

それぞれのアプリの情報をまとめて、1枚の紙にするんですか?サービスの利用者さん1名で1枚に?

清水さん
そうです。利用者さんが250名だと、250枚。プリントクリエイターでアプリを連携させて、1枚の用紙に出力しています
担当者が自分の専門領域だけ入力するだけで、あとは自動的に集約されて1枚の紙に落とし込まれるようになっています。
※プリントクリエイターを使ったアプリ連携について詳細はこちら

「ノートを開いて鉛筆を持ってください」で編集開始!

清水さんが試行錯誤したなかで、これはうまくいったなって感じたもの、ほかにもありますか?

清水さん
言葉を、使っている人に合わせる。ですかね。
たとえば、年配の人に「アプリを開いて、レコードを編集画面にしてください」って言っても、わからないんですよね。なので、わたしは「ノートを開いて、鉛筆を持ってください」って言います。

え?!ノートと鉛筆?!

清水さん
レコード詳細画面を開くアイコンが“ノート”。レコードの編集を開始するアイコンが“鉛筆”。ショートカットキーも、キーボードの“E”で編集画面を表示できる。奇跡的に鉛筆の“え(E)”なんですよ(笑)

それで、レコードの詳細画面が開く。なるほど。わかりやすい!

清水さん
あとは、それぞれのアプリを開くためのショートカットアイコンを、パソコンのデスクトップに置いています。ショートカットのアイコンも『報告アプリ』だったら“報告”、情報閲覧アプリだったら、猫が虫眼鏡をもったアイコンにしています(笑)

わー。かわいい!アイコンも工夫されてるんですね。直感的でわかりやすい。しかも、親しみやすくて。

清水さん
「『報告アプリ』を開いてください」って言っても、ちんぷんかんぷんなんですよね。でも、「“報告”を押して」とか「猫ちゃんが虫眼鏡を持っているところを押して」といえば、そのアプリが表示される。しかもショートカットの元はレコードを絞り込んだ一覧のURLなので、該当するレコードが表示される。

ショートカットをクリックするだけで、ポータルからスペースに行って、該当アプリを選ぶといった複雑な操作が不要になるんですね。

清水さん
迷わずに、です。ほんとに何度も迷子になるところを見たので。スペースを表示して、該当のアプリを選んで、アプリの中からレコードを選択して、編集モードにする。なんて絶対無理なんですよね。絶対無理です。

業務改善で、組織に眠っている力を引き出す

清水さんが業務改善していて、良かったなって思うときってどんなときですか?

清水さん
エンパワーメントしたときですね。みんなの眠ってた力がこう、目に見えたとき
ベテラン介護士さんがキーボード打ってる背中を見たとき。看護師さんがうれしそうに仕事をしているのを見たとき。一緒にシステム化を進めてきた同僚の相談員に「kintoneのアソシエイトの資格、僕もとります」って言われたとき。

みんなに良い変化が起きた。

清水さん
そういう瞬間は、ほんとに、良かったなって。
清水さん
個人個人が変わっていくと、組織が変わっていくっていうのを目の当たりにして。kintoneってほんとにただのツールじゃないな。業務改善ツールが成し遂げる世界じゃないだろうって思いました(笑)

“エンパワーメント”っていう言葉は、福祉の世界ではよく使われる言葉なんですか?

清水さん
障がいや病気、環境などで本来の力を発揮できない状況になっているとき、それを調整して、その人が持っている本来の力を発揮させてあげようというのが“エンパワーメント”なんです。
でもそれは、人じゃなくて、職員に対しても、組織に対しても思っていいんです。

組織の力をエンパワーメントする。っていいですね。ワクワクする。

清水さん
組織に眠っている力ってあると思うんですよ。業務改善ツールを使って、個人だけじゃなくて、組織をエンパワーメントしようっていうのは、なんかおもしろい仕組みだなって思ってます。

清水さんの繰り広げるやさしい世界、いかがでしたでしょうか?
ちょっとした工夫や、言葉の使い方を変えることで、チームのメンバーの眠っている力を引き出そうとする真摯な姿勢に心を打たれました。
迷子になる人を見つけたらショートカットを用意して、正しく誘導できる方法を用意する。システム用語に不慣れな人には身近な言葉に置き換える。しっかり、そしてそっとメンバーを観察したからこそ、見つけられた解決策なのかもしれません。
あなたも、そんな優しい「ひと工夫」を見つけてみませんか?