ワークスタイル09
株式会社ロケットスタート
ホールディングス

中小企業が生産性向上を実現するためには、ITを活用して働き方の多様化を実現するべき

優秀な人材をいかに採用するかに頭を悩ませている中小企業の経営者、人事担当者は多いはず。働き方の多様性が拡大する現代、事業の拡大や発展に貢献するコア人材を発掘し、長く活躍してもらうにはどうしたらいいのか。

(現)株式会社リクルートジョブズ出身、ローカルエリアであるつくばと宇都宮に本拠地を置く株式会社ロケットスタートホールディングス代表・星栄一さんは、企業活動の要である「スタッフ生産性向上のためのIT活用」を説く。

長く働いてもらうには、多様性に適応して、無茶をさせない働き方を提供すること

「私たちは事業として”人事”をやっているんです。お取引させて頂いている企業数は1200社以上にのぼります」。丸の内の瀟洒なオフィスで、株式会社ロケットスタートホールディングス代表・星栄一さんは快活に話し始めた。

正社員スタッフ21人とパート・アルバイトスタッフ9人、計30人の布陣で機動力高く構成される同社は、本拠地をローカルエリアのつくばと宇都宮に置き、都内のお客様のために今春から丸の内にもオフィスをオープンした。

リクルートジョブズ社『タウンワーク』などの求人広告の代理店である“マーケティング事業”、広告営業を通して繋がりのできた中小企業の採用サイトやコーポレートサイト制作も手掛ける“メディアコミュニケーション事業”、さらに一歩踏み込んで、中小企業のIT促進に深く関わった“ITソリューション事業”も手がける。

この3本柱の事業で企業に寄り添い、企業の採用・定着に長期継続的に携わるということは、たしかに人事を真正面から扱っているということだ。

「私がいつも取引企業にお話しするのは、採用と定着の秘訣は『ヒトを増やす、ヒトを減らさない、ヒトが便利になる』の3つだということです」。その背景には、これからより一層中小企業にとっては採用市場が厳しいものになってくるとの現実がある。

第1に売り手市場であること。第2に産業構造が変わってサービス業が飛躍的に増加しているにもかかわらず、若手の優秀な人材が不足していること。そして第3に女性やシニア、外国人など、働く人材や働き方が多様化し、かつそれぞれの「働き方のニーズ」が発生していること。

こうした社会の激変に適応するため、中小企業の側は特に変化が求められているのだ。そんな時代の人事戦略では、いかに優秀で多様な人材を多く集め、減らさず、かつ彼らが便利に働ける場を作って提供するか、がキモとなるのだという。

「いかに優秀な人材を集めるか」。これは、直接的な従業員の雇用という意味だけじゃない。雇用にとらわれず、アウトソーシングや事業パートナーシップ、M&Aなどを通して、自社に関わる優秀な人材を貪欲に増やしていく戦略へとスイッチしていく必要がある。

そして同時に、人材を減らさない工夫も大切だ。「これまでは若くて元気で、長時間労働に応じてくれる人材が経営者には都合が良かったんです」と星さん。

でも、いまはそんな若者は少なくなっている上に、女性や学生、シニア、フリーランスワーカーなど、様々な事情で短時間の労働を希望する人が増えている。

「人材と働き方のニーズは変化しています。その人たちにできるだけ会社に長期間・長時間関わってもらい、働いてもらうようにするには、多様性に適応して、無茶をさせない働き方を提供できないといけない」と、星さんは語る。そのためには個人のキャリアにフォーカスして、その人が働きやすい環境を構築していくことが近道だ。

働きやすい環境でありつつ、生産性も高めたい。そこで人を補填してくれる、適切なITツールの導入での「意味のある共有」が肝要になる。働く個人にとっての”便利”は、社に関わるみんなにとっての”便利”へ、そして有効な経営判断へと確実につながると星さんは自信をもって断言する。実はその大きな理由は、自身の経験にあった。

無茶をさせない働きかたの秘訣は、仕事のタスク分解。kintoneでできた200時間の業務効率化

星さんがロケットスタートホールディングスを起業した2014年、彼の念頭にあったのは「会社の動きがリアルタイムで把握でき、それを元に迅速な経営判断を下す組織にしていきたい」との思いだった。

起業以前に株式会社リクルートジョブズで営業2拠点を統括するマネジャーとしていた星さんは、広告代理店業務での煩雑な取引の進捗や営業の数字の把握など、情報管理のスピードには課題を感じていたためだ。

ロケットスタートホールディングスはサイボウズの業務改善プラットフォームkintoneを導入。「営業の売上見込みの共有」→「受注」→「原稿制作」→「受注登録」→「入稿」→「実績管理」までの仕組みを構築することで、結果として年間200時間分の工程を削減に成功した。

「kintoneはタスクの差配が得意なので、タスク分解と見える化がここでできる。これが私たちでkintoneをカスタマイズした、自社システムです」と、星さんは見やすくずらりと並ぶタスク進行表のマス目を見せてくれ、取材チームからどよめきの声が上がった。

営業が案件を受注したらすぐに外出先から登録し、内勤のスタッフが内容を確認して原稿を書き始め、その進捗を随時記録する。すると、内勤のスタッフがそれぞれどれだけタスクを抱えていて、どこまで進んでいるのかを一目で把握できるので、無理があるようならタスクのバランスを調整することができ、長時間労働の防止にもつながる。

だがこのシステムは、単なる時短や状況把握のしやすさにとどまらない。多様な人材の多様なワークスタイルの受け入れをも可能にするのだ。

例えば受注が確定したら自動的に原稿作成業務の進捗管理アプリにデータが移行するなど、社員にとっては全てが1つのシステムの中で機能しているため、パートやアルバイト、リモートワーカーなどの労働時間に制限のあるスタッフでも、いつでも状況をリアルタイムで理解し、自分の業務を遂行後、入力保存できる。リアルタイム情報は「意味のある共有」になるという。

”無茶のない働き方”の秘訣とは、仕事のタスク分解です」と、星さんは言う。作業を小さく分解して短時間でも着実にこなせるようにし、全体の進捗を共有して”見える化”するシステムでは、同時に、小さく分解されたタスクに直接的に紐づく評価・承認も見えやすくなる。

どんなスタッフにとっても、働きやすく、頑張りやすいシステムだ。経営者やマネジメントラインが監督的思考を持つ一方で、数字を見て把握し、スタッフへの称賛や感謝である”ありがとう”をきちんと表現できるようにしておくことで、スタッフの定着度が上がるのだという。

自分たちの業務改善の経験を生かして、広告代理店と飲食業に働き方改革を提案

自ら開発したkintoneアプリでの業務改善経験を経て、その便利さを確信したロケットスタートホールディングスは、自分たちと同業の広告代理店の働き方改善にも貢献したいと、自社が使用しているものと同じシステムの導入サポートも始めた。

毎月数千本にもなる求人広告原稿の進捗を一元管理するシステムに、複数の社が飛びついている。

また、ロケットスタートホールディングスは「kintone飲食店パッケージ」も開発。つくばや宇都宮などに展開するローカルの飲食系中小企業へ販売し、こちらも各社の働き方に変革を起こしている。

「飲食業とは特に労働集約型のサービス業。パート・アルバイト比率が高く、常に人手を必要としているんですが、おかげで採用コストがかさみ、優秀なコア人材の採用・育成・定着の困難、スタッフの労働生産性や損益、FL比率の改善など、課題は多いんです」と、日々多くの飲食店と取引を行ってきた星さんは語る。

飲食店は、現金商売が基本。エクセルで日報を出し、紙ベースで月次売り上げ報告を行い、店長同士が電話で「今日は人が足りないから、そっちのスタッフを貸してよ」と融通するようなアナログのカルチャーが残っている。特に仕入れコストや人件費の管理などは、現場の店長がそれぞれの感覚で行い、店舗による差が激しくてもそれは店長の能力の差であると考えられてきた。

kintone飲食店パックは、スタッフ生産性向上で店舗に利益を出すためのツールだ。食材コストと量を管理して食材調達のロスを減らし、シフトやタイムカード管理を行って人件費をコントロールし、短日損益やF/L比率を見える化して、店舗と本部で情報共有する。

ロケットスタートホールディングスの顧客では、現場にインターネットも引いていなかったような飲食店チェーンがkintone飲食店パックを導入し、売上と利益アップへ導き大成功したケースがある。

「情報が見える化されることで、店舗によって利益に大きな差があるのはマネジメントの問題なのだと、現場の意識が変わったんです。店舗間の競争心も生まれて店長の働きが能動的になる。そうするとアルバイトもキラキラして、現場が生き生きとするんですよ。月単位で古い記録を見ても仕方ないですから」。

インターネットやデバイス、AIなどのITは、いわばヒトを補填してくれるツール。星さんは続ける。「広告業界や飲食業界でのIT活用の秘訣は、人と情報、人と人を効率的に繋げること。つまり、コミュニケーションコストを下げ「意味のある共有」をするということなんです」コミュニケーションコストが下がることで、こんなにも現場は変わり、ヒトは便利を享受できるものなのだ。

採用が厳しくなっている中でのIT戦略とは

実はいま日本では、例えば1人辞めたからといって、その欠員を埋める1人を採用することも難しいほどに人材採用のハードルが高くなっているとの現実がある。

「日本の人口減少、それに伴う労働人口の減少。私たちはこれまでの常識よりも少ない人員数で仕事をすることになります」と星さんは指摘する。

サービス業とは製造業のような発展型パラダイムではなく、低成長の人口減社会における成熟型パラダイム。成熟の時代においては、人が採用できないならば作業をシステムに任せ、1人が辞めたままでも円滑に機能する組織を作るというスタンスが大切になってくる。

例えば、お客様からの問い合わせで電話がかかってくるからといって電話対応の人材を1人雇うくらいなら、その電話がかかってこないように問い合わせフォームをHPに用意するといった発想の転換が必要だ。

これからの時代、人は人にしかできないこと、つまりやるべき本業とマネジメントに注力していくべきです。その為にはITや機械にできる作業は積極的にシステム化していく必要があります。kintoneは形がないシステムだからこそ、お客様ごとの細やかなニーズに応え、こうした時代の変化にも柔軟にマッチさせていくことができると考えています」と語る星さん。

限られた人材の能力や時間を最大限に尊重するからこそ、人々にとって働きやすく効率のよい働き方の仕組みを作ることが、組織の生き残りをも左右する時代なのかもしれない。