数日間、ほとんど眠らずに仕事をすることが当たり前なSI業界。そんな環境に違和感を抱き、自ら「ブラックではない」SI会社を立ち上げた吉田 超夫さん。なんと、社員の半数が在宅勤務だそうです。
クラウドツールを駆使して自社の働き方改革に取り組んでいる株式会社ソウルウェアに、働き方改革のコツをお伺いしました。
システムインテグレーション(SI)業界では、深刻な人手不足やエンジニアの過剰労働が業界全体の課題になっています。吉田さんご自身も、やはり長時間労働で苦労した経験をお持ちなのでしょうか?
そうですね。私が起業することにしたのは、SI業界で当たり前になってしまっている長時間労働への反発があったからです。
起業する前はエンジニアとして幅広く仕事をしてきましたが、どの会社の労働環境も恵まれているとは言えませんでした。何社か経験してきた中のある一社ではシステム開発のマネージャーを務めていましたが、その会社はいわゆる典型的な“ブラック企業”。
繁忙期には数日間、ほとんど眠らずに仕事をすることが当たり前でしたし、ひどい時には部下のプログラマーに指示している最中に、そのまま意識を失って眠ってしまうこともあったほどでした。
それは相当過酷な環境だったのでしょうね。では、最初から「働き方」を意識した会社づくりをしてきたのでしょうか?
実際のところ、最初から働き方にビジョンがあったわけではありません。会社を始めてからいろいろな働き方をしているパートナー企業、お客様企業と出会ってきたなかで、いまの会社のスタイルが少しずつできあがってきました。
現在、ソウルウェアさんではどのような働き方があるのでしょうか?
当社には正社員が8名在籍しているのですが、そのうちの4名が在宅勤務です。
在宅勤務は、エンジニアの一人が結婚を機に東京から和歌山に移住しなければいけなくなったことから始まりました。
その後、経理を担当していた女性社員もご主人の転勤により滋賀に転居することになり、ほかにも、メールベースのカスタマーサポートと営業アシスタント業務を担当する社員が福岡在住、人事・総務を担当する社員が埼玉在住で、それぞれ在宅勤務を行っています。
リモートワークを実践するには、当然ですが、業務の改善や見直しも行ったと思います。それはどのように進めたのですか?
様々なクラウドツールを導入しました。例えば経理担当社員の在宅勤務が決まったとき、当時の経理システムはオンプレミスで稼働する会計パッケージを使ったものでしたが、クラウド会計ソフトに切り替え、業務改善に取り組みました。
社員間のコミュニケーションは、和歌山在住のエンジニアとは週1回、ビデオ会議を使った定例会を持っています。それ以外の事務職の社員とは、サイボウズの業務アプリ作成プラットフォーム「kintone」やビジネス向けチャット「Slack」などのクラウドツールを使ってコミュニケーションを行なっています。
その場その場でクラウドツールを導入し、働き方を変えてきました。
他にも、業務を見直した例はありますか?
はい。以前当社では、電話やメールによって作業が中断し、それがエンジニアにとってかなりのロスになっていました。
私は経営者として、エンジニアにクリエイティブなマインドを持っていて欲しいと考えています。そのために、作業に集中できる環境や時間的な余裕を作ることも必要だと思っていて。
そこで電話応対をすべて秘書代行業者に取ってもらうように切り替えたり、メールはサイボウズのメール共有システムを使うなど、ITの力を借りて作業の中断を減らす取り組みを行いましたね。
働き方改革を進めるために、業務改善を実現するツールをどのように選べばよいか、コツのようなものはありますか?
現在は便利なクラウドツールがたくさんあります。なんでも一つのツールでやろうとは思わず、複数サービスを組み合わせて行くのが良いと思います。
自社の業務プロセスに100%合うものを求めてしまうと、システムを用意するのにコストも時間もかかります。
今はITに詳しくない人でも、様々なサービスを組み合わせて連携することは容易なので、ツールに合わせて業務プロセスを変えるという割り切りも必要なのではないでしょうか。
ソウルウェアさんでは働き方改革を支援する便利なツールを自社開発していますね?
はい。まず勤怠管理・交通費精算のクラウドサービスを提供しています。 定期券をカードリーダーにかざすだけで、勤怠情報や交通費情報を自動で読み取ってくれるサービスです。
それは便利ですね。交通費精算に時間がかかっている人は多そうです。
そうですね。私自身、以前の会社では紙での交通費精算をするのに2時間以上かかっていました。月末に自分の1ヶ月の予定を振り返って、経路を調べて計算して…って結構時間かかりますよね。
過去に在籍していた職場では、交通費精算に時間をかける余裕なんてありませんでした。あまりにも業務が忙しくて、交通費精算をするのを諦めてしまったぐらいです。その会社を辞めるまで、交通費は自腹で払っていたんです。だから、交通費申請にかける時間を短くしたいとずっと考えていました。
そんな無駄な業務時間を短縮するには、交通系ICカードを直接読み取ってしまえば手っ取り早いと思いました。けれどもICカードには直近20件までのデータしか保存されていないため、精算のためだけに頻繁に読み取るのも手間になります。
確かに、締日でもないのに精算するというのは、漏れが出てきそうな運用ですね。
そこで考えたのが、勤怠システムと交通費清算の機能を一緒にして使うことです。ICカードをタイムカードとして使えば、出勤・退勤時にリーダーにかざすだけで打刻できるだけでなく、毎日確実に交通費精算のデータを読み取れます。
すごい。タイムカードと一緒になっていれば、毎日自然に読み取れますね。
はい。ほかにも、請求書や見積書、納品書などをワンクリックで自動的に発行できるサービスや、発行した請求書などを、設定した宛先にFAXや郵送で送るサービスなども提供しています。
請求書や納品書を送る作業って、手作業で帳票を作ったり送ったりしなければいけないので大変ですよね。でも誰かがやらなければいけない。そんな作業を少しでも楽にしたいという思いから、サイボウズさんやコクヨさんと協力して「Repotovas」というサービスを提供しています。
請求書や納品書をワンクリックで作れる上に、出力した請求書の印刷、封入、投函はコクヨさんが代行してくれます。このサービスは、ソウルウェア社内でも福岡で在宅勤務をしている社員が請求書を発送するための手段として利用しています。
在宅勤務とRepotovas の相性は良さそうですね。
そうなんです。実は在宅勤務で請求書を発送するのって大変で。請求書を印刷するプリンターも用意しなければならないし、郵送費用もかかります。このサービスが、今後在宅勤務をする会社に広がっていけばいいですね。
実際に交通費精算・勤怠管理の製品を採用している企業では、どのような効果が得られていますか?
あるコンサルティング会社では交通系ICカードを個別に読み込んでデータをシステムに移し、交通費精算処理を行っていたそうですが、ICカードでは20件しか読み込めないので、その都度データを吐き出していたそうです。
弊社の交通費精算サービスを利用することで、ICカードから取り込んだデータが毎日自動的に入力され、経理部門の業務も交通費精算を行う社員の業務も効率化されたと聞いています。
なるほど。Repotovasを使った帳票出力・帳票配信の事例も是非教えてください。
ある競技団体では従来、日本代表選手を招集する際にExcelを使って名簿を作成し、1から招集状を発送するという作業を行っていたのですが、この招待状作成や発送業務にRepotovasを利用することで、選手の名簿からワンクリックで招待状を作成できるようになり、招集状を発送する手間も低減されるようになりました。
素晴らしい効果ですね。
ソウルウェアさんは他社の働き方も変えているということですね。これから働き方改革を進めようという企業には、どのようなアドバイスを送りますか?
まず企業に対しては「成果の測り方」を見直してほしいと言いたいですね。特に古い体質の日本企業では「社員が時間どおりに働いているか」「目標の売上が達成できているか」といった管理ばかりしています。しかし、働き方を評価する指標はたくさんあるはずです。その企業に合った、おもしろい指標を持ってもよいのではないかと思います。
その一方で、企業で働く社員の方々にはもっと柔軟になってほしいと思います。
柔軟とはどういうことでしょうか?
働き方改革や業務効率化が進むと、どうしてもいまの仕事を続けられないケースも出てくるでしょう。そうなったとき別の仕事にすぐ切り替えられるように、個人が心構えを持っておくべきです。複業もそうですし、社内でもやれることはたくさんあると思います。
これができていないと、例えば便利なツールが出てきても、企業は社員の労働機会を奪いかねないとツールを導入できず、無駄な業務を続けなければなりません。
社員の仕事が無くなるので働き方改革や効率化ができないというのはおかしな話ですね。
そうなんです。業務効率化が行われず、働き方改革も進まないというジレンマが生じてしまいます。
さらに働き方改革そのものを目的としている限り、なかなか先には進みません。最終的には社員がどんな人生を歩みたいのかというところまで踏み込み、何を実現したいのか考えてみるとよいのではないでしょうか。
吉田さんが実践する働き方改革は、これから働き方改革に取り組もうとする企業にとってとても参考になる、そう感じさせられたインタビューでした。ありがとうございました。
システムインテグレーション(SI)業界では、深刻な人手不足やエンジニアの過剰労働が業界全体の課題になっています。吉田さんご自身も、やはり長時間労働で苦労した経験をお持ちなのでしょうか?