ワークスタイル14
株式会社ウェルクス

急成長する組織で、社員が会社の課題を自分ごと化するためには?

組織が大きくなっていくに連れて社内コミュニケーションが希薄になり、会社の課題に対して一人ひとりが当事者意識を持てなくなってしまう……。「成長痛」ともいえる、多くのベンチャーに共通する悩みだと思います。

毎年社員数が倍以上に増加している株式会社ウェルクスでは、これを「タスクフォース」と呼ぶ独自の取り組みで解決しようとしています。運動増進やコスト削減、ITスキルといった全社的な課題を解決するために11の社内横断チームを作り、全社員がいずれかに参加を義務付けているそうです。

設立5年目にして従業員数は260名を超えている株式会社ウェルクスは、拡大し続ける組織とどのように向き合ってきたのでしょうか。

全社員にタスクフォースを義務付け。「会社を動かしている」実感を得てほしい

三谷 卓也(みたに・たくや)さん。富士通株式会社、株式会社エス・エム・エスを経て、2012年1月に株式会社クレヴィスを設立し代表取締役に就任。2013年4月、第二創業として株式会社ウェルクスを設立し、代表取締役として活動中。

貴社で取り組まれている「タスクフォース」という取り組みでは、運動促進やITスキル向上など、全社員がいずれかのタスクフォースに所属し、会社の課題を解決するために活動しているとうかがっています。

これは、どのような仕組みになっているのでしょうか。

「会社の課題を全社員に自分ごと化してほしい」という意図で、毎年取り組むべき課題をトップダウンで設定しています。

どのような背景でこの取り組みをスタートさせたのでしょうか。

私の会社員時代の原体験が大きく影響しています。

私は新卒で社員数17万人を超える大企業に入社し、営業部門に配属されました。そうなるとどうしても、営業は部署内の縦ラインでしか関わらないようになってしまうんですよね。

部署を超えた横のつながりが持ちづらいと。

はい。会社を辞めるときに初めて総務や人事部門の人と会話したぐらいです(笑)。

限定的な範囲でしかコミュニケーションをしないので、一社員としては「自分が会社を動かしている」という実感もなかなか持てない。私の場合はこの環境にあまり面白みを感じられませんでした。

自分の仕事や自部署のミッションしか見えないと、閉塞感のようなものを感じてしまうのかもしれませんね。

それで2社目は、創業5年目、まだ社員数60名という規模だったベンチャー企業を選んだのですが、その企業も約500名の規模を誇る東証一部上場企業になってしまい、徐々に経営層や管理部門の人と接する機会も減っていってしまって。

ものすごい勢いで成長したのですね。

はい。自分自身が2社でそれを体験しているからこそ、自分が創業した会社では違う道を歩みたいと思っているんです。部署間のコミュニケーションが盛んで、社員は会社のミッションを自分ごととしてとらえ、高い参加意識を持っている組織にしたい。

そんなウェルクスを実現するために設けたのがタスクフォースです。本業以外の経験を積むことで、個人の成長にもつながると考えています。

それぞれのタスクフォースでKGIとKPIを設定

タスクフォースの活動はいつ頃から始まったのですか?

2015年4月です。それまでは組織の規模がまだ小さいこともあり、各社員が自発的に声がけをするなど、役割分担を行わずに社内の課題を解決していました。

しかし、組織の拡大に従って必要なタスクも増えてきたため、タスクフォースという形で横串しでやるようになっていきました。

プロジェクトの進め方は?

まず、それぞれのタスクフォースにおけるミッションを明確にします。例えば運動増進のタスクフォースであれば「健康経営を進めていく」といった具合ですね。

そして年次のKGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)とKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を設定します。

年次で目標設定するということは、タスクフォースのあり方も毎年変わっていくということですか?

はい。今のところは、年度ごとに私から必要なタスクを提案して経営会議で必要性を判断し、適したリーダーを指名するというやり方です。

その年度でタスクが達成されれば廃止し、新たに必要なタスクが浮き上がってくればその推進に向けてタスクフォースを作る。そんな風に進めています。

三谷さんの原体験をもとに動き出したタスクフォース。社員のみなさんは、どのような意識でこの活動に取り組んでいるのでしょうか。メンバーを代表して、武藤理沙さん、石田浩幸さんのお二人に語っていただきました。

実際にどんなタスクフォースがあるのか?現場社員に直撃!

石田 浩幸(いしだ・ひろゆき)さん。地元・熊本でフォトグラファーとして活躍していたが、熊本地震での被災を機に上京。2016年12月にウェルクスへ入社し、保育系サービスのディレクションやメディア運営を担当。

お二人はそれぞれ、どのタスクフォースに参加されているのでしょうか?

「運動増進」のタスクフォースです。社員の中に体調不良を訴える人が多いことを課題視して、健康経営を進めるために結成されました。

弊社はデスクワークが多いので、社員が運動不足になりがちなんです。

武藤 理沙(むとう・りさ)さん。前職は一般事務。ウェルクスの面接で出会ったマーケティング責任者の熱意と理念に惹かれ、マーケティング本部のメンバーとして2015年4月に入社。事業を横断してウェブ広告の運用を担当している。

私は「理念・戦略」のタスクフォースでリーダーを務めています。ウェルクスのビジョンや理念、戦略を浸透させることがミッションです。

武藤さんが向き合う「理念・戦略」というミッションは、とても深いですよね。

そう思います(笑)。私が入社した頃は社員数が30名ほどで、特に「理念や戦略を浸透させよう!」と考えなくても、自然とみんなが同じ方向を見て頑張れる環境でした。

それが100人を超え、200人を超えてくると、同じようにはいかないんですよね。

「社長が何を考えているか分からない」「何のために仕事をしているか分からない」と感じている人も出てきます。

なるほど。

社員全員が「自分たちは何のために仕事をしているのか」を明確に意識できてこそ、チームワークを発揮することができます。

ウェルクスの場合は「プロフェッショナルなスキルを通じて社会の問題を解決する」という企業理念があり、人材理念(※1)や、それに基づいたスピリット(※2)や戦略がある。

新しく入社した人にも、これらを頭で理解するだけでなく、日々意識するようになってほしいという思いで活動しています。

「理念・戦略」のタスクフォースから発信される資料や社内報は、とても分かりやすくて勉強になっています。

そう言ってもらえるとうれしいです!「理念とは」「戦略とは」といったテーマはどうしても固くなりがちなので、とにかく分かりやすく噛み砕いて発信するようにしています。

(※1)人材理念……社員の基本的な考え方として、「パッション」(企業理念の実現に情熱を持てる人)、「ポジティブ」(常に前向きに物事を考え実行できる人)、「プライド」(プライドを持てるレベルでの仕事ができる人)の3つを掲げている。

(※2)スピリット……ウェルクスの社員として必要な考え方や行動について全社員を対象としたアンケートを実施。その結果をもとに、「遵守」「全力」「成長」「挑戦」「変化」「感謝」「仲間」「改善」「自責」「超速」の10のスピリットとしてまとめた。

マネジメントの勉強や、本業の生産性向上にもつながっている

運動増進のタスクフォースは、「社員が1日1万歩を歩く」というKGIを掲げています。

1日1万歩は高い目標ですが、本気で達成を目指していて、全社員にウォーキングアプリを導入して歩数を計測し、週に1回、全員分の数字を見ています。

貴社には若いメンバーの方も多いと思うので、健康を意識している方もまだ少ないのではと思うのですが、上手く社内を巻き込むコツはありますか?

社員みんなが健康を意識できるような発信を心がけています。

毎月発行のマガジンでおすすめのジムを紹介したり、正しい歩き方を伝えたり、オフラインでのイベントを開催したり。

アプリ運営会社を巻き込んだ「ウォーキング企業対抗戦」というイベントがありましたよね。あれ、とても面白かったです!

タスクフォースの活動に取り組むことによって、何か変わったことや気づきはありましたか?

私は「理念・戦略」チームのリーダーなのですが、普段の仕事では人数が少ないこともあり、あまりマネジメントをする機会はないので、とても貴重な機会だなと思っています。

本業ではないタスクフォースへのやる気をどのように引き出していくかを考えるのは勉強になります。

僕の場合は、活動時間の縛りがあること本業への生産性が上がりましたね。

「タスクフォースの活動は業務時間内に、月4時間まで」という縛りがあるので、自然と効率的なミーティングのあり方を考えるようになりました。

こまかなコミュニケーションにはチャットツールを活用して、ミーティングでは決定事項だけを扱うとか。今は、20分ほどでタスクフォースのミーティングが終わるようになりました。

タスクフォースの活動で「やることが増えている」はずなのに、本業の生産性向上にもつながっているのは面白い変化ですよね。

タスクフォースを今後こうしていきたい、などの希望はありますか?

これまでのタスクフォースはトップダウンで課題が決められますが、今後は僕たちからもタスクフォースのあり方を提案してみたい気もします。

確かに。会社の課題は人によってさまざまなとらえ方があるし、自分たちで変えていきたいと思うことは今後も絶対に出てきますよね。

「メンバー発で、ボトムアップのタスクフォースも提案してみたい」。会社の課題解決のために、本業とは異なるミッションも進んで引き受けたいと考える社員の思いを、トップはどう受け止めているのでしょうか。改めて、「ウェルクスのこれから」を三谷さんに聞きました。

「完全なトップダウン」が変わった背景。一人では何もできない。

武藤さんと石田さんは「自分たちからもタスクフォースのあり方を提案したい」と話していました。

そう言ってくれるのは率直にうれしいですね。会社が大きくなっていくにつれて私が見えない部分も出てきているので。

僕も社員からボトムアップで、どんなタスクフォースが必要なのかを提案してほしいと思っていました。

率直に、経営トップとして「会社全体が見えない」とはっきり言えることがすごいと感じます。

実際のところ、今はすでに社長の立場で現場が見えていませんからね(笑)。管理職層に対しては「現場のことを、社長があなたたち以上に見えるわけがない」という話をしています。

タスクフォースの成り立ちなどをうかがうと、もともとは三谷さんがトップダウンで推進する社風だったのではないかと思います。

現在のような考えに変化したのには、どのような背景があるのでしょうか?

おっしゃる通り、以前は完全にトップダウンでした。

管理職層がまだ育ってきていない頃は「社員には任せないで、自分一人でやるしかない」と思っていたんです。睡眠時間は毎日4時間くらいで頑張っていました。

社長がすべてを抱え込むようなスタイルだったわけですね。

はい。私は昔から「1人で4人分働こう」と考えてがむしゃらにやってきたタイプなんですが、事業が拡大してくうちに、さすがに「自分1人ではできないことがある」と悟りました。人にやってもらうしかないのだと。

そんな中で管理職層が成長し、私も「信頼できる人にやってもらおう」と思えるようになっていきました。

「みんながエース」じゃなくていい。個性を発揮しあい、業績を伸ばしながら残業を減らせる体制へ

今後、会社としてはどのような展望を描いているのですか?

今は売り上げのメインが人材紹介ですが、この事業では求職者の方との面談が重要です。

現職をお持ちの方だとどうしても夜の時間に面談が集中するので、現状は21時まで対応していて、残業をゼロにするのが難しい。これをなんとか変えられないかと考えています。

事業構造的に遅い時間帯まで稼働せざるを得ないという状況なのですね。

はい。ただその原因は、「目標設定のあり方」にもあると思っているんです。

現在は個人が目標数字を抱えているのですが、これをチーム目標だけに変えたいと思っています。チームリーダーがリソースを配分できるようになれば、メンバーそれぞれで「今日は早く帰る日」などの調整もやりやすくなるはずです。

これに合わせて、来期からフレックス制の導入も検討しています。

なるほど。一人ひとりで個別の目標を追いかける必要がなくなれば、自然と協力しあって最適な働き方を実現できるようになりますね。

「みんながエース」じゃなくていいと思うんですよ。

ぐいぐい数字を追いかけるのが得意な人もいれば、陰でサポートすることに長けている人もいる。そんな個性を発揮しあって、業績を伸ばしつつ残業を減らせる体制を実現したいと思っています。

そのためにも、ボトムアップで一人ひとりが会社を動かしていく風土をより深めていきたいですね。

三谷さんが課題視していたように、規模の拡大に伴って社員が主体性を失ってしまったり、トップダウンの経営スタイルからなかなか抜け出せなかったりして悩んでいる組織は多いと思います。

そうした企業の方々へアドバイスをいただけますか?

極限まで社長がやってみれば、いろいろ見えてくると思います。30人の会社なら、一度社長が30人分の仕事をやってみる。

極論かもしれませんが、そうやって自分の限界が分かれば、1人ではできないことを悟ることになると思うんです。

「メンバーが自発的に動いてくれない」という悩みはよく聞きますが、一口にメンバーと言っても、どんどん上に行きたい人や、そこそこの仕事でバランスを取りたい人など、さまざまな志向を持つ人が集まっているわけですよね。

だからこそ個人で考えてもらうだけでなく、チームで考えてもらうことが大切なのだと思います。それがトップダウンからボトムアップへと変わり、社員に会社を自分ごととして考えてもらう第一歩になるのではないでしょうか。