ワークスタイル15
株式会社山豊

シール配布で有給促進?お漬物メーカーの粋な施策に学ぶ「働き方改革」成功の秘訣

「ITに疎いから働き方改革は難しい」と感じている方に明るい事例を紹介します!お漬物メーカーが、「超アナログ」な方法で働きやすい職場を実現したお話しです。

同社の成果は目を見張ります。残業体質が一変、定時退社が当たり前になりました。その差は1日2~3時間にもなります。有給取得率も格段に上がりました。今ではパート・アルバイトにいたるまでバンバン有給を取得します。取得理由は「息子が熱を出した」など何でもOKです。

これを聞くと、「従業員が自分の都合でバンバン休んだら仕事が回らないのでは?」と感じますが、工場はうまく稼働し、会社はむしろ成長しています。

なぜ「働きやすい職場」と「会社の成長」を両立できたのか?「アナログなやり方」でも大丈夫なのか?同社が働き方改革に成功した理由に迫ります。

60~70代が活躍する、無理にIT化しない職場

株式会社山豊 代表取締役社長 山本千曲氏

まずは事業について教えてください。

山豊は、広島の名産品「広島菜漬」をはじめとするお漬物を自社工場で生産しています。商品は直営店・お土産物屋・飲食店で販売しています。

山豊のお漬物工場

山豊さんの広島菜漬は地元でも有名ですよね。社員構成でいうと、どんな方が多いのでしょうか?

総務部 部長 太田和宏氏

従業員は約100名です。社員が30名、パート・アルバイトが70名です。平均年齢は54歳。60歳以上が39人、70歳以上が13名と、40%が60歳以上です。

60~70歳の方が多く活躍されているのですね!

当社の平均年齢が高いのは「漬け物を美味しくする手」の持ち主に長く働いていただきたいと考えているからです。不思議なもので、同じ作り方をしても手によって味が異なります。

おいしい漬物を作ってくれる方に長く働いてもらうことは、当社の味を守るという意味でとても重要です。

業務ツールなど、仕事を進めるための環境について教えてください。

社内の連絡は工場への連絡が多いこともあり内線電話が中心です。漬物の発注書は電話やFAXで届くので書類もたくさん扱います。アナログな面も多いです。

一方で、5人いる事務担当にはパソコンを1人に2台支給し、受注処理・電話応対・調べ物などを並行で行えるようにしています。高齢化が進んでいることもあり無理にIT化を進めることはありませんが、できることは積極的に行うことにしています。

働きやすい職場づくりの鍵は「多能工化」だった

「多能工化を進めた結果、働きやすい職場になっていた」と働き方改革に取り組んだ経緯を語るおふたり

働き方改革をはじめたきっかけを教えてください。

うちでは「働き方改革」を目的に労働環境を改善したわけではありません。経営課題に真剣に向き合っていたら、結果として働きやすい職場になっていたという感覚が正しいように思います。

どんな経営課題に向き合った結果、働きやすい環境になったのですか?

1つめは「人員のだぶつきによる経営危機」を解決したことです。2012年ごろ、当社は工場を、1人が1つの作業をする「単能工」で回していました。例えば、原料を洗うのが専門の人、浅漬けをする専門の人、といった具合です。

しかし単能工の場合、ある工程で人が足りないと、足りない箇所全てに増員が必要になってしまいます。するとあちこちの工程で人が増えるので、いつの間にか人件費が増大。一時的に利益を出しにくい状況に陥りました。

どのように解決したのですか?

この解決のために1人で複数の工程を担当できる「多能工」を育てました。原料を洗う・浅漬けをする・調味付けをするなど、1人がどんな工程でも対応できるように、育成を行ったのです。いこれである工程に人が足りなくなっても他の工程から人を回せるようになりました。

以前は欠員が出るたびに人を採用していましたが、その必要がなくなり、少ない人数でうまく工場を回せるようになりました。終業時間も早くなりましたね。

素晴らしいですね。まだ他にも多能工化の効果はありますか?

あります。従業員は休みを取得しやすくなりました。誰かが休んでも、誰かが補ってくれるので仕事に穴があかないのです。当社の従業員はパート・アルバイト関係なく気軽に有給を取れる理由の1つがここにあります。

なるほど。仕事がきちんと回るからこそ気軽に有給を取れるのですね。

有給取得数を5倍にした「シール制度」

うちではみんなバンバン有給をとりますよ。有給取得促進策の「シール制度」の効果もあり以前の5倍は取得するようになりました。

5倍はすごいですね!「シール制度」について詳しく教えてください。

有給の申請をする時に、「有給専用のシール」を申請書に貼って提出してもらう制度です。有給シールは年初に従業員に支給します。シール1枚で半日、2枚で1日取得できます。年20日有給がある人なら40枚渡します。2日休みたいなら4枚貼って提出するという具合です。

有給申請はシールを届出書に貼ることでできる。

このシールは毎年デザインを変えています。凝ったゼザインにしており、何年に配布されたものかすぐにわかります。有効期限もあります。有給の残日数を知らされて「残り◯日」と思うより、「シールの残数=有給」と思うほうが「使わないともったいない」という心理が働くようです。

シールは毎年デザインが変わる。凝ったデザインにすることがコツという。

面白い制度ですね!この制度をうまく回すためのコツなどあれば教えてください。

コツは、有給申請がきたら、子供の熱や旅行など、どんな理由でも認めることです。病気などのケースでは事後申請であっても「オーナー企業の良さ」を発揮してOKします。

熟練の人が長く勤めてくれるほど、山豊の味を保てます。長く働いてもらうには、例えば怪我をしても「ええよ、ええよ」と許容できることです。もちろん就業規定はありますが、例えば、規定以上のお休みが必要になった場合でも、規定範囲だったケースと同様に評価します。

いつ誰が休むかわかりませんが、多能工化しているので当日にミーティングを行いどこに何人補充するかを話し合えば仕事は回ります。

「ええよ、ええよ」という雰囲気はステキです。有休の取りやすさが伝わってきます。

これでも20年前は「有給はあって無いもの」という雰囲気でした。パートやアルバイトさんの有給取得も病気の時ぐらいでした。それが今では病気だけでなく、家のリフォームなど個人的な活動でも気兼ねなく取得できるようになっています。

シール制度など遊び心のある工夫や、有給を取得しやすい雰囲気づくりの大切さを感じました。

「外部要因」をうまく使って定時退社を実現

山豊の工場。ここからお漬物が出荷される。定時退社できるようになった最大の要因は「トラックの集配時間」の変更だったという。

山豊さんは労働時間も短縮されたそうですが、どのような施策で時間短縮できたのでしょうか?

当社の場合は外部要因にうまく対応できたことが大きいと思います。ある時、出荷トラックの締切りが17時に早まり、絶対に待ってくれないという契約に変更されました。これが好影響し、終業時間が劇的に早まりました。

これまでは「待って」と言えばトラックは待ってくれていましたが、これからは17時に間に合わない商品は出荷できなくなります。だから以前に比べて事務所は素早くその日の生産計画を工場に伝えられるように動き、工場は効率よく生産しようと努力しました。

気がついたら事務所と工場の両方が、平均2~3時間も仕事が早く終るようになっていました。

平均2~3時間の労働時間短縮は凄いインパクトですね。外部要因で働きやすくなるというエピソードは初めて聞きました!

「トラックの締切時間」のような「外部からの刺激」は、誰もが納得の上で動いてくれるので、働き方を変える絶好のチャンスではないでしょうか。

面白いことに、トラックの締切時間の変更が「早く帰れるようになった原因」と思っている人はほとんどいません。それでも早く帰れるわけです。

「互いを理解できる環境」は巡り巡って人を定着させる

「従業員同士の相互理解が進むと人が定着しやすい」と話す山本氏

その他にも働き方改革による効果はありますか?

今はなかなか採用できない時代なので社員には長く働いていただきたいと考えています。働き方が変わり、社内の雰囲気作りを大きく改善できたことで「人の定着」が進んだことは良かったですね。

人が定着するとは素晴らしいです。具体的に教えてください。

「多能工化」は従業員同士の理解を深めました。例えば、後の工程の人のために「この作業を丁寧にしよう」と考えて動いてくれる人がいます。他の部門を知らないと、前後の工程のために何ができるのかを考えることはできません。

私はよく「働くとは傍をラクにすること」と社員に伝えているのですが、「傍をラクにする方法」を具体的に考えられるようになったのは多能工化の効果です。

また「ペア就労」という制度も雰囲気を良くしています。高齢の従業員と若い従業員にペアで就労してもらい技術の伝承を行う試みです。若者はスキルアップでき、高齢者は頼られることでやり甲斐や充実感を得られます。

従業員同士の理解がすすんだことで会社の雰囲気がよくなり、結果として人の定着がすすんでいます。

社員同士、お互いを理解できることが社員の定着につながるのですね。高齢化が進んでいる会社にとって「ペア就労」もとても効果的に思いました。

働き方改革、成功の秘訣は「相互理解」

働きやすい職場をつくる秘訣は「互いを理解できる環境づくり」と山本氏は語ってくれた。

多くの会社が働き方改革をする際「社員に理解してもらえない」という悩みを抱えます。もし、理解してもらいやすくなるコツがあれば教えてください。

当社の場合は「互いを理解できる環境づくり」です。そのためには社長自らアクションすることが大事です。私の場合は、お互いのことを理解するきっかけとして月に1回「社長との誕生日会」を開催します。社員・パート・アルバイトに関わらず誕生日月のメンバーを招待しポケットマネーで手料理を振る舞うイベントです。

ここで、「お互いのことを理解する」「誰かが困っていたら助ける」「家族を想うように、思いやりの心を基本とする」といった大切にしてほしいことを社員に伝えています。

会社の雰囲気を作れるのは社長だけです。一緒に弁当を食べるだけでも違いますよ。

「互いを理解できる環境」を用意すると良いのですね!

自社ができることから始め、無理をしない

「働き方改革はできることから始めればいい。無理をしなくてもいい。」と口をそろえるお二人

最後に、働き方改革に興味のある食品メーカーや製造業の方にアドバイスをお願いします。

働き方改革は「やれるところから実践する」「自社なりにできることをやる」というスタンスでやってきました。ある程度の制度化はしましたが、無理をしてやってきたことはありません。

やれること、継続できることを実践し、ステップアップしていくことです。

実践で大事なのは、経営者は「こうするんだ!」という意思を示すことですね。

やれるところから実践する、無理をしない。ここから始めれば良いのですね。とても心が軽くなるステキなお話しをありがとうございます。