ワークスタイル16
株式会社 富士通エフサス

リモートワークでのタスク管理をスムーズにするコツは?富士通エフサスが瀬戸内移住者にテレワーク労働環境を提供

多様性のある働き方を実現するための手段の1つとして、在宅勤務を可能にするテレワークに取り組む企業が増えています。

しかし、リモート環境で仕事をスムーズにしてもらうにはどうマネジメントすればいいのか、気持ちよく仕事をしてもらうために日々どんなコミュニケーションが必要なのかといった、実際の運用に対して不安を抱えている方も少なくありません。

そんな中、株式会社富士通エフサスでは、テレワーク環境を自治体と一緒に構築し、移住者に対して新たな労働環境を提供するプロジェクトを推進しています。

社外の人に仕事をお願いする際に工夫していることや、テレワークに対する心構えなどについて、サービスビジネス本部 ソーシャルイノベーション推進室 室長 富士通総研 実践知研究員 太田 裕子氏および同推進室 小山 美加氏にお話を伺いました。

“働く環境”がネックだった瀬戸内市への移住。自社の仕事を移住者に提供することを決意

太田 裕子さん。サービスビジネス本部 ソーシャルイノベーション推進室 室長 富士通総研 実践知研究員。瀬戸内市移住者に労働環境を提供することを決意した。

今回富士通エフサスでは、瀬戸内市の移住者に対して、テレワークを通じて御社内の仕事を提供するというプロジェクトを始められていますが、なぜ瀬戸内市と一緒にテレワークのプロジェクトを始めることになったのでしょうか。

瀬戸内市への移住を検討する人にとって、働く環境がネックになっているという話を聞いたからです。

富士通エフサスは、普段はITベンダーとしてお客様にシステムを提案する立場にありますが、私が所属しているソーシャルイノベーション推進室は、「みんなにとって善いこと」を指す“共通善”に基づいた事業活動をしています。

その活動の中で、瀬戸内市の地域おこし協力隊や地元の人と話をしていると、瀬戸内市への移住を希望する人は多いものの、お金を継続的に得て家族を養っていくのがなかなか難しく、途中であきらめてしまう方が多いと聞きました。

確かに、仕事の環境がないことで断念する人は多そうです。

はい。また、瀬戸内市に限った話ではありませんが、多くの地方自治体は人口減少問題に直面しています。

そこで、私たち富士通グループの中でやっている仕事の一部を移住者の方にやっていただくことで、移住者の方の収入を得る元になるのではないか、瀬戸内市の人口減少の問題も少しは緩和できるのではないか、と考えました。

場所を選ばないのがITの良いところです。移住者の方は農業などの仕事をしている方がほとんどですが、やはりそれだけだと収入が厳しい方も多い。そこで、複業のような形で、私たちの仕事を移住者の方に提供することを思いつきました。

社内でテレワークを推進するだけでも大変なのに、社外の人にテレワークで仕事をお願いするのは相当ハードルが高いような気もします。そもそも社内でテレワークに取り組んだ経験はあったのでしょうか?

実は会社としても初めての試みで、社内でも運用したことはありません。ですので、思っているようなことができるかどうか、正直不安がありました。

そこで、いったん我々のパートナーと一緒に実証してみようということになり、1年間ほどテレワークにて仕事をお願いしてみる期間がありました。その経験のおかげで実際の運用がイメージでき、実現にこぎつけることができたと思っています。

社内の人であればいざ知らず、社外の人であれば “人となり”を把握することだけでもそもそも大変そうです。お願いするにあたっては、何か条件を付けていたのでしょうか。

仕事をお願いする人への条件としては、ハローワークのようにならないよう、3年未満の移住者だけに限定しました。また、テレワークにて仕事をお願いするので、「最低限インターネットが使えること」を必要な条件とし、現在は6名の方がテレワーカーとして働いています。

ただ、普通にインターネットを見て検索ができれば調べていただくこともできますから、特別なスキルは求めていません。

よほどのことがない限り、基本的にやりたいと手を挙げていただいた方には仕事をお願いするようにしています。

テレワークで大切なのは、技術的なスキルよりもヒューマンスキル

小山 美加さん。サービスビジネス本部 ソーシャルイノベーション推進室。リモートワーカーのマネジメントを担当している。

スキルもバックグラウンドも異なる人にお願いできる仕事ってイメージがつきにくい部分もあります。具体的にはどんな仕事をお願いしているのでしょうか?

テレワーカーの方6名に実際にお願いしているのは、我々の顧客に提出する月次報告書や提案書、設計書、マニュアルなどの資料作成業務などです。

開発したプログラムのテストやプログラム開発そのもの、ログ解析などの仕事もお願いすることがあるので、多岐にわたっています。

色々な仕事があるのですね。でも、それぞれ事情が異なる社外の人に仕事をお願いする際にはご苦労も少なくないのでは?

社内の人間であれば「お願いします」といってやってもらえばいいのですが、スキルやバックグラウンドが違う人にお願いするのはそんなに簡単ではないですね。

例えばWordやExcelが使えますかとお聞きすると、大概はできると皆さんおっしゃるわけです。でも、Excel1つ取ってみても、VLOOKUP関数まで扱える方もいれば、SUM関数しかできない方もいるわけで、実際にはレベルが大きく異なっているんですよね(笑)。

きちんと見極めたうえで仕事を差配しなければいけませんので、それなりに大変な部分もあります。

ただし、やる気さえあればインターネットの使い方などはいくらでも探し出すことができますので、スキルそのものは後から追いついてくれればいいというスタンスでやっています。

特別なスキルが不要であれば、私でも応募できそうですね(笑)。では技術的なスキルではなく、どんなことがテレワークにおいては重要だとお考えでしょうか。

技術的なスキルよりも、ビジネススキルやヒューマンスキルのほうが大切だと実感しています。

結局1人でやる仕事だと思われがちですが、実際には誰かに判断を仰ぐ必要が出てきます。相談できる人がすぐ隣に座っているわけではありませんので、ある程度自分で判断していくことが求められるシーンが少なくないのです。

もちろん、分からなくなったときにこうしてください、ああしてくださいということは事前にお伝えしますが、“こんなこと聞いてもいいのかな”と思って思案してしまう人もいれば、聞かないままやり過ごしてしまい、納品物に反映されていないままの状態で平気な人もいます。

結局のところ、お互い気持ちのキャッチボールができない人は、テレワークは難しいのではないかというのが個人的な感想です。

ツールを駆使して、テレワーカーとの仕事を円滑に

テレワークの場合遠隔地にいる方とやり取りすることになりますが、情報共有やコミュニケーションはどのように行っているのでしょうか。

情報共有やコミュニケーションには、当然ですが何かしらのツールが必要です。そこで今回は、オンライン上のコミュニケーションには業務効率化ツールのkintoneを、対面のコミュニケーションには顔を見ながらコミュニケーションできるWebEXを採用しています。

kintoneはクラウド環境で利用できる業務改善のためのツールで、業務部門の方でも自由に業務システムが作れる仕組みです。WebEXはインターネット越しに資料を共有しながら会議ができるものです。

リモート環境で打ち合わせする際に会議ツールを用意するのはわかりますが、情報共有はメールなどいろんな方法があると思います。なぜ個別のツールを採用したのでしょうか。

前提として、それほど運用が固まっていない状況のなかで、実際にテレワークしながら必要な機能を追加したり改善したりしていくことになるため、変化に柔軟に対応できるkintoneがベストだと考えました。

外部の方と円滑なやり取りが可能な仕組みにはクラウド環境が欠かせませんし、遠隔地同士で情報共有しやすく、コミュニケーションも容易な環境が求められました。タスクの一覧を管理でき、コメント欄でやりとりできるということで、誰にでも使える、操作が簡単な仕組みとして、業務効率化ツールのkintoneを採用しました。

リモート環境にいる方へどのように仕事を依頼されているのか、その流れについて教えていただけますか。

社内で新たに仕事が発生すると、その仕事内容に適任だと思われるテレワーカーに電話などで仕事の打診をします。受けていただけるのであれば、kintoneで作ったタスク管理アプリに仕事内容を起票し、仕事を始めていただきます。

例えば資料作成の仕事であれば、事前に私のほうで仕上がりのラフをPDFやPPTなどで作成し、kintoneのスペース上に貼り付けることでお互いにイメージを共有したり、テレワーカーからの質問やこちらからのお願いなどをkintoneにあるコメント欄に互いに書き出してもらうことでコミュニケーションを取ったりしています。

目の前で仕事をしているわけではないため、進捗状況を把握するのは難しそうですが、どのように進捗管理を行っているのでしょうか。

「作業日報アプリ」と呼ばれる進捗状況を報告してもらう仕組みをkintone上に作っています。作業日報は、タスクに関する進捗状況を書いてもらうのですが、何度も仕事をお願いしていけば、この方は何時間でどれくらい進められるのかというのが分ってきます。

そこで状況を見れば「この仕事は苦戦しているな」といったことが推し量ることができ、こちらからフォローのアクションを取ることができます。たとえ自己申告でもきちんと進捗を報告してもらうことで、たとえ離れていても進捗管理できるようになっています。

今の時代、情報漏えいをはじめとしたセキュリティ事件が後を絶ちません。リモート環境で安全性を担保するために、どのようなことを行っているのでしょうか。

社外の方に仕事をお願いするテレワークだからこそ、セキュリティ対策は非常に重要です。お客さまの名前や情報が保存されたスマートフォンを落としてしまったら目も当てられません。

だからこそ、セキュアな環境を維持するべくいろいろなことを行っています。まず、作業してもらうための特定のPCやネットワーク環境を用意して、その環境でないと作業できないようにしています。

作業環境を限定することでセキュリティリスクを軽減しているわけですね。

お客さまの情報をお預かりしている部分もあるため、そこは厳格に行う必要があります。実際にはセキュリティチェックも厳密に行っています。Windowsアップデートは1週間に1回実施するといったルールを設定しており、それが行われていないとタスク管理の仕組みが起動しないようになっています。

また、アンケート機能を使って、Windowsアップデートいつ行ったのか、アンチウイルスソフトのバージョンがいくつなのかといったことを回答してもらったり、アップデートされているかどうかの証拠として画面をキャプチャしてkintoneに貼り付けてもらったりしています。

雑談の時間を取ることがテレワークのコツ

ツールを駆使していらっしゃるんですね。距離が離れている方とのコミュニケーションにおいて、相手を信頼するコツってありますか。

信頼せざるを得ませんよね(笑)。採用のときでも、この人が信頼できるのかどうかなんて、正直分かりません。

ただし、仕事をしていただく関係上、お客さまが求める納期や品質の部分はシビアに考える必要がありますので、まずは1つ仕事をやってもらったうえで、次回以降は出し方や依頼の方法など工夫する必要は当然あります。

社員でない外部の人で、かつ遠隔地にいる方とのコミュニケーションで工夫していることはありますか。

仕事以外の、雑談の時間を取るように心がけています。Web会議をやっていても仕事の話は2割ぐらいにして、あとは天気や日常の話をする感じですね。

実際に移住者の方は初めてリモートにて仕事をすることになるため、身近に質問できる人がいないというのはものすごく不安なはず。そんな時こそすぐにアクションしてほしいので、無駄話もちゃんとする必要があると思っています。

雑談はリモートワークで大切だと言われていますよね。他にコミュニケーション上で気をつけていることはありますか?

どんなことでも1つは必ず褒めるということですね。リモートワークだと特に、厳しくしすぎてしまうとモチベーションが下がってしまいがちです。「ここはもう少し直したほうがいいけれど、これはとっても良かった」と伝えることを心がけています。

今は瀬戸内市との取り組みですが、今後この取り組みを拡大させていく予定はあるのでしょうか?

気持ち的には、富士通グループ全体だけでなく、我々のお客様が社内で抱えているお仕事もいただけるような、クラウドソーシングの代わりとして使っていただきたいという気持ちはあります。

移住者の方だけでなく、ある程度子育てをされていて家計の足しに収益を得たいという方にも役立つ仕組みだと思っています。現状は6名ほどがテレワーカーとして参加いただいてますが、これをもっと増やしていって、100名規模にはしていきたいですね。

いずれにせよ、地域にお金が落ちるように、地域の人が幸せになるように、ということを願っています。今回は瀬戸内市での取り組みですが、他の自治体でも同様の活動を広げていければと考えています。

ありがとうございました。