ワークスタイル19
コクヨ株式会社

スケジューラーへの入力のひと工夫で“時間の使い方”への意識が劇的に変わる!

人口構成が変わり、労働人口が減少する中、どの企業も生産性の高い働き方を模索しています。

では、何をすればいいのでしょうか。実態に合わない理想論や、「時短を心がけよう」の掛け声だけでは、大した効果はありません。

そんな中、コクヨが実践した内容は、非常にわかりやすく簡易なものでした。社員の“時間の使い方への意識”が大きく変わった、その方法とは?

目からウロコ!スケジューラーに「ある予定」を入力すると社員の意識が大幅に改善

赤木 由紀さん。コクヨ株式会社 経営管理本部 人事総務部 人事統括ユニット

「働き方改革」と銘打って残業削減や生産性向上の取り組んだものの、なかなか成果がでずに苦労している企業が多いですよね。

そんな中、コクヨさんはあることをしただけで社員の意識が大きく変わったと聞きました。具体的にはどんな方法なのですか?

2017年12月に1カ月間、コミュニケーショントライアルを実施しました。

コミュニケーショントライアル?

生産性向上の取組みの一環として、部門内メンバーのスケジュール見える化です。

主な内容は一日のスケジュールを見える化することと、トライアルの1カ月間は20時までの退社を原則とし、週に1日以上、ノー残業デーを設定する取り組みです。

なぜそのような取り組みをされようと思ったのですか?

コクヨでは、身近なノートなどのステーショナリーからオフィス家具、オフィス・公共・商業空間の構築など、多様な商品やサービスを部門ごとに展開しています。

2000年から男性と女性の総合職はほぼ半数ずつ採用しており、それぞれの事業部門で活躍する女性の数も多い。

そうした女性たちが、結婚や出産、育児といった人生の節目を迎え、短時間勤務、在宅勤務など、ライフスタイルに合わせてさまざまな形で働いています。

一方で、部門や職種によっては長時間勤務が恒常的で、残業時間をもっと減らせないか、という声が上がっています。

人口が減少していく中、こうした背景によって社員が疲弊し、辞めていく現象が起これば、会社として大きな損失です。それを解決するために、生産性向上の取り組みの一つとして実施しました。

なるほど。しかし、そういったノー残業デーを設けている企業もありますが、単なる声掛けで終わってしまう企業も少なくないと聞きます。

そうですね。ここまでだとどこの企業でもある、普通の取り組みです。

しかし、弊社の場合は単なる掛け声だけで終わらないよう、スケジューラーを徹底的に活用しました。

スケジューラーの活用ですか。詳しく教えてください。

原則20時退社や週1のノー残業デーに加え、スケジューラーに「出勤時刻」と「退勤時刻」を必ず入れるようにお願いしました。

藤井加奈子さん。コクヨ式会社 経営管理本部 人事総務部 勤労厚生グループ

出勤時間と退勤時間、ですか。なぜその2つを入れるようにしたのでしょうか?

理由は2つあります。

短時間勤務の社員含め、メンバーが何時に出てきて何時に帰るのかがわかる、というのがまずひとつ。特に短時間勤務を活用している社員の場合10時出勤で16時退社なら、「打ち合わせや会議はその間に入れないといけない」という周りのメンバーに意識が芽生えます。

なるほど。

2つ目は、退勤時刻を意識して業務計画を立てる習慣作りのためです。

19時に業務を終えて帰る…と宣言したのに、20時、21時とならないよう、スケジューラーに出勤時間と退勤時間を入れてもらうことで、時間内に終わらせることを意識してもらいたかったのです。

実際に使われたスケジュールの画面。退社時間を記入する他、残業する時は「残業」と記入する

確かに、出勤時間と退勤時間を入力することで、時間に対する意識は高まりそうですね。

はい。また、トライアルの期間中は、予定の退勤時間に仕事が終わらずに残業となった場合、なぜ予定の退勤時間までに仕事が終わらなかったのかという理由を入れるルールにしました。その残業が本当に必要なのか、さらに意識づけができるような仕組みです。

また、退勤時刻の10分前には、ポップアップで「あと10分で退勤」と出てきます。もうすぐ退勤予定時刻という事が認識でき、残り時間を意識して、今やっている業務を仕上げる、または明日の勤務時間の作業に回しても大丈夫なのか判断する、などの対応をとることができます。

退社の10分前には、デスクトップに「退社」のポップアップが表示される

出退勤時間を入れるだけで、働き方への意識改革ができるというのは、目からウロコでした。他に、入力のルールはありますか?

働き方への意識という点では、毎週金曜日に翌週の予定を入れて1週間分のスケジュールを立てることをルール化しています。

そうすると「業務の棚卸をする」ことにも使えるんですよね。業務として設定したもののモヤモヤするような、「これ、本当にやるべきなのか」というようなものってありませんか?

スケジュールを共有することで、ほかのメンバーからも「これ、無理してやらなくてもいいんじゃない?」と言ってもらえ、忙しい1週間のスケジュールから見送ろう、という判断もしやすくなります。あるいは、「だれかとペアでやったらどうか?」というアイデアも生まれます。

また、個人作業も予定表に書き込むこともルールにしました。

集中して個人作業を行いたい時間は「集中タイム」と入力することで、仕事のプライオリティが他の社員にもわかるようにします。

あと、仕事のスケジュールだけでなく、プライベートの予定も「予定あり」と入力することで、打ち合わせなどの仕事を入れられないようブロックしています。

月平均4時間の残業カットに成功。秘訣は部門単位でやること

実際、残業時間は減りましたか?

このプロジェクトは2016年にも行ったのですが、2016年に実施したある部門では、月平均4時間カットという結果が出ました。

2017年も3.5時間のカットです。このやり方でだいたい3~4時間の残業時間減少することが確認されています。

トライアルをした部門のスタッフには全体的に好評で、6割の社員が「時間に対する意識が高まりましたか?」という問いに「とてもそう思う」と答えているほか、トライアルをした半数以上が「帰りやすい雰囲気がアップしましたか?」という質問に「とてもそう思う」と答えています。

帰りやすい雰囲気を醸成できたと実感しています。

スケジュールの入れ方を工夫しただけなのに、ここまでの効果が出た理由はなぜだと思いますか?

上司が部下の退社時間を把握して、一緒になって残業をなくそうと動いてくれたことが大きいと思います。

スケジューラーに登録された部下の退社時間を見て、「そろそろ6時だよ、帰らないとね」「今日もお疲れ様」と声をかける上司も多かったようです。

こうしたねぎらいの言葉が、退勤時間の肯定感とともにもらえることは、部下としてはうれしいですよね。

また、組織単位で参加をさせたことも大きかったと思います。みんなの意識がこの退社時間計画トライアルに向かっている。

自分ひとりだと、「スケジューラーに入れたけど、みんなまだ帰っていないし、そのとおりでなくてもいいや」になってしまうかもしれませんが、組織で取り組めば、周囲も予定を守るようにフォローしてくれます。

会議の時間設定も変わりますね。以前は1時間の会議設定がデフォルトになっていましたが、会議続きの日などは会議室への移動があったりすると遅刻が発生していました。

会議に遅刻して参加することは、会議が始められないことや遅刻者が内容を十分に理解できず、非効率な時間となってしまいます。そこで会議時間の設定を45分間にしようなど、時短意識が生まれます。

45分の会議なら、前後の移動時間にも余裕が生まれ、気持ちの上でも切り替えができ、多少の準備もできることになります。また、スケジューラーからポップアップで「あと5分」と出すことで、時間どおりに終了させることもできます。

特に退勤間際の会議が時間通りに終わることは、短時間勤務の方には重要です。そうした配慮もスケジューラーを使うことでしやすくなります。

トップダウンでの強制は形だけの残業削減になりがち

複数の部門を巻き込んでプロジェクトを進める必要があったかと思いますが、どのようにこのトライアルを進めたのか教えてください。

部門長に声がけし、トライアルをやりたいと手を挙げた部門のメンバーに参加してもらう、という形をとりました。

強制はしないのですね。あくまで、声かけをして興味がある部門で実施すると。

はい。トップダウンで強制させてしまうと形だけの残業削減になってしまうので、トライアルに興味がある部門を募集するという形で進めました。

社員の方に入力の仕方を説明するために、何か工夫はしましたか?

出勤時間、退勤時間の記入ルールや、予定外の残業のときにその理由の記載の仕方などを、簡単にまとめた「記入例」を社員に配付しました。

社員に配布された記入例。「プライベートの予定も入力する」「個人作業も予定表に書き込む」などのルールが決められている

ガチガチに決めてしまうとトライしにくいですし、使いにくくもなるので、上記のようなカンタンな形にし、金曜日に翌週1週間のスケジュールを入れてもらうことにしました。

おおまかにルールを守っていただけば、あとは使いやすい形にしてもらえればいい、と伝えています。

営業部門には「残業削減」ではなく「売り上げ目標達成のための時間の使い方」という切り口が刺さる

部門ごとに「残業削減」に対する温度差などはありましたか?

営業部門の部門長から「営業は数字をあげるのが仕事なので、残業削減のためにこのスケジューラーの取り組みをするのでは賛同を得にくいので、言い方を少しアレンジしてもかまわないか?」と事前に相談を受けました。

具体的には、どのようにアレンジしたいということだったのでしょうか?

目標達成のためには、いつまでに何をしておかなければならないかを明確にする必要がある。

だからスケジューラーを活用するんだという形でメンバーに説明したようです。目的は残業削減ではなく、営業の売り上げ目標達成のための取り組みと位置づけることで、メンバーも取り組む気になったといいます。

働き方改革、特に残業削減でネックになりがちなのは、営業部門のようにお客様と直接関わる部署です。

そういう人たちには「目標により近づくため」「お客様へより良い提案をするため」などという言葉の方が効くということがわかりました(笑)

人事としては、労働時間の短縮という目標のために実行を促していたスケジューラーですが、部門ごとの目的に合うようにアレンジすることもできる。そういう意味でも、使い勝手がいいですね。

人事発で社内に浸透させるには、ルールをゆるくし、自発的な参加を期待する

トライアルとして1か月やってみる、ということでこの形のスケジューラーの使い方をしているわけですが、トライアル終了後もこのまま使いたいという意見はありますか?

「このまま自発的に続けます」という意見は多いですね。人事としてはうれしいです。

トライアルをした部門同士がディスカッションできる報告会も開催し、方法論や工夫の仕方なども共有してもらいました。それも好評でしたね。

具体的にひとつひとつの事象をどうこう、というのもありますが、「スケジューラーの活用次第で、生産性が上がるよね」という共通認識が生まれています。

社内を巻き込むコツはありますか?

ルールをガチガチにしすぎないことでしょうか。「こうしなければいけない」というのではなく、「これを入れればラク」という感覚にとどめてもらう。そのほうが長続きします。

弊社はマジメな人が多いので、やるとなればカンペキにやろうと思う人が多いのです。でも、「ルールを守ろうとする感覚ではなく、部門内のコミュニケーションを活性化するために使ってください」と言っています。

小さな一歩でもいいと思います。押し付けではなく、現場の仕事をやりやすくするためにひとつでも役立つことがあればいい、という感覚で臨んだほうが、好感をもって受け入れてくれるようです。

働き方を改革することで、休みも積極的にとれるようになった、そんな風にしたいですね。きちんと年休をとれる会社にしたいのです。

弊社の年休の取得率は高くありません。きちんと休んで、生活全体を豊かにするような働き方改革が理想です。そのための改善策を、今後も考えていきたいですね。