ワークスタイル20
シスコシステムズ合同会社

制度やツールをそろえるだけでは「働き方改革」は浸透しない 草の根的に文化を根付かせるアイディア

2001年に在宅勤務規定を導入するなど「働き方改革」に先進的に取り組んできたシスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)では、社員ボランティア(アンバサダー)が中核となって、革新的で多様なワークスタイルの推進を進めています。なぜ社員参加で「働き方改革」を推進しようとしているのでしょうか?その狙いや効果を、実際にアンバサダーとしてワークスタイル変革に携わっている御三方にうかがいました。

ボトムアップとトップダウンを組み合わせた働き方改革への変遷

シスコシステムズ合同会社 人事 人事部長 宮川愛さん

本日はよろしくお願いします。シスコは「いち早く働き方改革に取り組んできた先進企業」というイメージがありますが、具体的にはどのような取り組みをされてきたのでしょうか?

シスコでは2001年から4段階での働き方改革を進めています。外勤営業社員を中心とした生産性の向上や、従業員満足度の向上などを目的に在宅勤務規定を導入したことが第1段階です。2007年の第2段階はオフィス移転の時で、フリーアドレスやペーパレス化を推進したり、在宅勤務対象者を拡大するといった取り組みを行いました。

2011年の第3段階では、インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)活動を開始し、従業員の多様性への対応を推進し、現在は第4段階として市場変化に対応しうる組織作りを行っています。

なるほど、働き方改革を常に念頭に置かれてきたいのですね。在宅勤務やフリーアドレスなどはイメージしやすいのですが、第3段階、第4段階はどのような点が特徴なのでしょうか?

シスコでは社員のボランティアによるアンバサダープログラムを2011年から行っています。シスコのI&C経営戦略に賛同する社員であれば誰でもアンバサダーに参加可能なのですが、現在6つあるコミュニティのうちの1つがFlexible Work Practices。略してFWPが、革新的で多様なワークスタイルの推進を目的に活動している点がユニークだと思います。

経営企画室 プロジェクトマネージャー クリステンセン佐矢子さん

実は今日集まった3名は、FWPで活動しているアンバサダーなんですよ。よく「働き方改革=在宅勤務」と思われている方がいらっしゃいますが、人事プログラムや制度だけが「働き方改革」ではありませんよね。

IT製品などの「テクノロジー」や人事制度などの「プロセス」ももちろん「働き方改革」には重要ですが、「カルチャー」すなわち企業風土の醸成も不可欠です。この役割をアンバサダーによる6つのコミュニティが担っているのです。

メンバーから出た働き方改革の課題を1年単位で解決していく

サービスプロバイダー事業 KDDI事業部 第1営業本部 シニアアカウントマネージャー 吉田留津子さん

「カルチャー」を醸成させるとのことですが、シスコ独自の「カルチャー」はどのようなものでしょうか?

私は転職組なのですが、転職直後に会議のために会議室に来たら、誰もいないことがありました。参加するはずのメンバーに連絡するともう、入っているよ」と言われて…。シスコにはWebEXなどのコミュニケーションツールがありますので、会議は必ずしも会議室で行われるわけではないのです。

このように、いつでもどこでもセキュアに働ける環境も「カルチャー」の1つでしょう。

「カルチャー」醸成のためにFWPではどのような活動をされているのでしょうか?

その点については2017年のFWPのリーダでもあり、発足当時からFWPに関わってきた私からご説明します。

1年目は、在宅勤務規定を理解しているか、間違った使い方ではないか、…という気付きを社員に提供するための勉強会を開催しました。

「在宅勤務の間違った使い方」ですか?

「今日は病気なので在宅勤務します」というのは、間違っていますよね。病気なら休まなければ(笑)。

在宅勤務は権利ではなくオプションです。オフィスにいるよりも在宅の方がパフォーマンスを発揮できるから在宅勤務を選択するわけです。

言われてみれば、確かにその通りですね。

2年目は「シスコでは社員はこう働いている」という広告的なスライドを作成しました。営業マンが外部に対してアピールするためのツールです。シスコは半分以上が転職組である中、「前職と比べて働きやすい」という声が非常に多いのですが、それを社外に知ってもらいたいと。

3年目は2年目の活動を受けて、さらにマスに広げるためにWebに乗せるビデオを作成しました。

新しいワークスタイルを積極的に活用していることを、対外的に広める活動をしていたのですね。

でも4年目は「外に向けてばかりアピールしていたけれども、そもそも自分たちが新しいツールを使いこなせているんだっけ?」と見つめ直す活動になりました。自分たちで自社のツールを使って理解して、社員に広めようと。

実は、この頃、新しいコミュニケーションツールを社内で活用し始めたのですが、使いにくくてフラストレーションが強くて…。IT部門のマネージャーに「使いにくくて非効率だ!」と談判したところ「将来的に製品として提供する前に、社員でテストしている。使いにくいところがあったらどんどん言ってほしい」と言われました(笑)

ツールを使いこなせていない社員向けの勉強会も開催しましたよね。トータル600名くらいの社員の参加で…。

そして5年目は、シスコのI&Cを社内にも社外にも啓蒙するためにキャッチフレーズを選定しました。社員からキャッチフレーズのアイディアを募集して、役員とFWPメンバーとマーケティング本部で投票してもらいましたが、立場によって方向性が違うキャッチフレーズが票を集めたんです。

役員賞は「全てがつながれば、働き方も変えられる。」

マーケティング賞は「その『働き方改革』、寄せ集めのソリューションで実施しようとしていませんか?」と、自社製品のアピールにつながりそうなキャッチです(笑)

そして、FWPアンバサダー賞は「増えたのは、家族の笑顔でした。無理しない、働き方。」です。

社内アンケートでは、柔軟な働き方の実践で別の活動に使えるようになった時間は1日平均2時間となっています。1日のうち2時間が仕事以外に使えるのは、まさに「無理しない、働き方。」だと思います。

文化をFWPチームを起点に戦略的に醸成する

FWPの活動は、社員の考えが「働き方改革」に反映されるという魅力がありますね。

社員が中心に働き方の改善を行うというと、なんとなく企業対社員の構図になりがちですよね。対立の構図を生むのではなく、共通の目的を達成するためにお互いができることをやっていこうという意味でアンバサダーグループはFWPを含む6つのコミュニティはそれぞれが自発的に課題を定義し、自分たちでできる解決策を実行する活動をしていますが、それぞれのコミュニティーにサポーターとして役員がメンバーに加わっていますので、自分たちの力が及ばない課題については社員が権利をかざす活動をするというよりも、必要ならばFWPに名を連ねる役員に預け、会社としての改善案につなげてもらう形で活動しています。

「働き方改革」はトップダウンで進める企業も多いですが、トップダウンだけではなく草の根的に、カルチャーとして新しい働き方が根付くという考え方です。

社員の方には、シスコの「働き方改革」はどのように評価されていますか?

FWPについての社内意識調査では80%が「シスコで働くことを誇りに思う」、90%が「シスコの柔軟な働き方が、シスコで働き続けるための重要な要素」と回答しています。

シスコでは「働き方改革」は社内外すべての働き方におよび、イノベーションを促進するための経営戦略に位置付けられています。そして一部の社員だけでなく、すべての社員に適用されるべきものです。アンバサダープログラムは1年単位で行われるので、次年度の活動はこれからですが、今後も社員参加による「働き方改革」が続いていきます。

なるほど。大変参考になりました。本日はありがとうございました。