ワークスタイル21
株式会社Too

100周年を迎える老舗ベンチャー。「わくわくしながら働く」を実現するための新たな取り組み

2019年に創業100年を迎える株式会社Tooは、デザイン分野における専門商社。グラフィックデザインはもとより、工業デザイン、一般企業のデザインワークまで、多岐に渡るお客様にデジタルからアナログまでの幅広いツールとサービスを提供している。平均年齢42歳で、女性比率は20パーセント。

100周年を迎える老舗ベンチャーが、働きやすい環境を作るための「ワークスタイルサポートプロジェクト」(WSSP)を立ち上げた。WSSPを推進する庄部兼司さん、槙田淑子さん、古賀麻子さんの3人に、そのストーリーをうかがいます。

「このまま働き続けるのは不安です」女性社員から出た声

庄部 兼司さん。HRデベロップメント部ゼネラルマネージャー。営業部門を経て2017年2月より人事部門へ。採用や研修、労務の責任者として、Tooの働き方改革に関わる。

みなさんは所属する部署も職種もバラバラですよね。どのような経緯でWSSPに参加することになったのでしょうか。

私はWSSPが発足するタイミングで声がかかり、人事を代表するような形で参加することになりました。

私はWSSPのリーダー的役割をしています。営業部で営業を経験していたこともあり、女性で営業の立場がわかる存在としてアサインされたのだと思います。

古賀 麻子さん。顧客対応や請求書発行などを担う業務部を経て、子供の小学校入学を機に子育てとの両立のためジョブチェンジ。現在はAdobe製品などのトレーニング教室で受付業務を担当する。

私の場合は子どもが4歳を過ぎた後、フルタイム勤務が辛い時があり、制度外でしたが時短勤務をさせてもらえないかと交渉した経緯があります。プロジェクトに声をかけてもらい、「自分自身の経験を活かしてもっと働きやすい環境を作りたい」と思って参加しました。

ともに会社から選ばれてプロジェクトへ参加しているのですね。

はい。社長をはじめとした経営陣の間で協議し、メンバーを決めたと聞いています。

社長の中には、すでに社員の働き方に対する課題があった?

そうですね。現在の社長である石井剛太は4代目として2011年に就任したのですが、当時のTooの企業文化はまさに「ザ・昭和の会社」という感じで、当初は衝撃を受けたそうです。昔ながらの体質が続いていて。

「ザ・昭和の会社」とは印象的な言葉ですね......。実際のところ、どのような点ですか?

すべてが悪いというわけではないのですが、「真面目で慎重すぎる」雰囲気でしょうか。新しいことに及び腰というか......。当時は、何か思うことがあっても、「これ、私が発言していいんだろうか?」といちいち考えてしまう社員もいたように思います。

石井の発案でオフィスを移転し、全社員が集まるイベントや部活動など、社員同士のコミュニケーションを図る機会が格段に増えました。この7年間で互いの顔が見えるようになり、加速度的に新しい取り組みが増え、様々な声を上げる場面も増えたように思います。ただ、大々的に「働き方」に関する積極的な取り組みは行っていない状況ではありました。

そんな中、入社3年目を対象としたフォローアップ研修の中で、ある女性社員から「このまま働き続けるのは不安です」という声が出たんです。2016年11月のことでした。

制度を活用するための「ガイドブック」が、マネジメント層の教育にも効果を発揮

槙田 淑子さん。デジタルメディアシステム部に所属し、エンターテイメント・文教などデジタルメディアを使う業界向けの製品プロモーションやセミナーを担当している。WSSPのリーダーを務める。

「このまま働き続けるのは不安」というのは、重い告白ですね。

はい。「今後の結婚や出産、その後の職場復帰がイメージできません」と打ち明けられて。

人事制度には産休・育休の規定があるものの、身近なモデルケースが見えず、どう活用すればいいかわからない、もしくはそもそもその制度自体を知らないという若手がいたんです。

研修での一幕は石井も居合わせていました。ここ最近女性の採用も多く「そういうイメージをもったまま働くことは問題だ。これは、今すぐに対応しなければいけない経営課題だ」ということで、11月のうちに「ワークスタイルサポートプロジェクト」(WSSP)が発足することになったんです。

研修の後、すぐさまプロジェクトが立ち上がったと。トップダウンだからこそのスピード感ですね。

そうですね。年が明けて2017年の2月には、全社員が一堂に会する期首の決起大会でWSSPについての説明があり、広く知れ渡っていきました。

実際の取り組みについても教えていただけますか?

最初に取り組んだのは「ガイドブック」の制作です。出産・育児・介護を支える制度の活用方法などをわかりやすくまとめました。

出産・育児・介護などを経験している人もそうでない人も同じレベルで理解し、職場を挙げてサポートできるようにしたいと考えたんです。

たしかに、育休に入る人へのサポートを充実させるためには職場全体での理解が必要ですよね。このガイドブックは、どのような形で活用されているのでしょうか。

アルバイトを含めた全従業員に配布しています。実際にやってみて、マネジメント層の教育につながるなという実感は得られました。ただし、継続した教育が必要かと。

マネジメント層の教育?

社歴の長いマネジメント層の中には、昔ながらの考え方を引きずっている人がいたのも事実です。「今はそうじゃないんだ」ということを理解してもらうための良いツールになったと感じています。また、「自分も家族の介護を経験して大変だった」という声も聞かれました。「そうか、育児も大変だよな」といった具合に、ライフステージの変化と向き合う社員への共感が生まれていったように思います。

不足していたのは、「社員の声を聞く」「必要な情報をわかりやすく共有する」ことだった

また、ガイドブックを作る前に匿名の全社アンケートを実施したところ、ハラスメントに対する認識の違いについて懸念の声が寄せられたんです。そこで完成したガイドブックを元に、管理職向けに勉強会と全社員向けの読み合わせ会を行いました。また、社外の専門機関に依頼して相談部門も設けました。

相談先があることは、ハラスメントだけでなく働き方全般において大切だと思います。私も時短勤務の必要に迫られて悩みましたが、家族の幸せを考えて上司に相談しました。誰かに関わってもらうことで実現できることもあります。

今までは「社員の声を聞く」「必要な情報をわかりやすく共有する」という取り組みが不足していたのかもしれませんね。

他に取り組んでいることはありますか?

「コバコライブラリー」という施策では、社内に小さな箱を用意して、多様性や働き方に関する書籍を集めています。例えば、「急に親が倒れてしまった」というときにも、日頃の心構えがあれば対応の幅が広がると思うんですよ。知識を得て、心の準備ができるようにしたいと思っています。

取り組みの変化はありましたか?

プロジェクト1年目は、いわば、育児や介護で悩んでいる人向けの施策がメインだったのですが、2年目は「わくすた」という活動を中心に、働き方全般を幅広く見直していくことにシフトチェンジしています。

「わくわくスタジオ」、通称「わくすた」は、「わくわくする働き方、わくわくすることを考える場所を作ろう」ということで始めました。まずは、表に出てこないような声を集めるために、全社に募集をかけて集まってもらったんです。

初回はランチタイムにお弁当付きの特典をつけて、自由に話しやすい規模にするため10名の定員で募集しました。

テーマも厳密に定めず、固定概念のない外部の人にファシリテーターとして入ってもらいました。「理想的な状態を考える前に、現状の問題を明らかにしよう。会社の中でもやもやしたことを洗い出してみよう」とアドバイスをもらって、実際に取り組んでみました。

とても興味深いです。社員のみなさんが感じていた「もやもや」には、例えばどのようなことがあったのでしょうか?

育児系では、「誰がどんな風に制度を利用しているのかわからない」「後輩や同僚にアドバイスできない」という声がありました。私は個人的に声をかけてママ会を開いていたので、そんな取り組みについても情報共有しました。

あと、「他の部署が何をやっているのかわからない」という声も印象的でした。全社的なプロジェクトに参加している人以外は、他部署のことがわからないと。

「具体的な悩みがあるわけじゃないけど、どんな声が聞けるのか興味がある」という参加者もいましたね。

これまで計3回実施したのですが、直近の「わくすた」はテーマを絞り「Tooにおけるテレワークの現状とこれから」について話し合いました。このプロジェクトにおいて大事なことは、見えない敵と戦わないことだと思っています。

見えない敵とは?

例えば「もやもや」を紐解いていくと、「誰とはわからないけれど問題と言っている人が確かいた」といった当事者不在の問題に行き当たることがあるんです。これは「問題があるはずだろうという空気感」が見えない敵になってしまっているのではないかと思います。
そういった"問題っぽいこと"に対峙するのではなく、本当の課題を明確化して、何を変えたほうが良いのか、解決に向けて建設的に話し合っていきたいです。

グループウェアで風通しを良くし、一人ひとりが主体的に働き方を決められる組織へ

こういった議論や取り組みは、どのようにして共有されているんでしょうか?

わくすたで話していることは、グループウェアのGaroonというツールを活用して全社にも共有しているんですよ。その場にいなかった社員にも、どんな議論があったのかを効率的に知らせることができていると感じます。

まさに「必要な情報をわかりやすく共有する」ということですね。わくすたで出てきた課題を共有されるだけでも、大きな意味があるのではないでしょうか。

そう思います。Garoonのポータルを社内メディアのように活用することで、他部署の情報も伝わりやすくなりましたよね。新しくジョインした人を紹介することも普通になりました。掲示板やスペースでの情報発信も盛んです。WSSPで制作したガイドブックや資料なども、Garoonのポータル上に共有しています。

その他、Garoonはツールとしてどのような活用が考えられますか?

Garoonは情報を見に行きたい人が検索すれば、どんどんおもしろいものが見つかるという良さがある。私は社員のちょっとしたつぶやきを見つけるのが好きです。全国の拠点から、業務改善や生産性向上につながった良い取りくみなどを共有し、ふんわりと「良い知見があつまる」場所や仕組みなども、Garoon上で作っていけると良いなと思います。

Garoonのおかげで、社内コミュニケーションの土壌は確実にできあがってきていると感じますね。最終的には、わくすたそのものがなくなることが、一つのゴールなのかなと思っています。

WSSPでは、今後の展望をどのように描いていますか?

トップダウンで始まったプロジェクトではありますが、じゃあどうしていきたいという方向性は現場から積極的にあげていきたいですよね。そして、「わくすた」を通して挙がってきた課題は是非とも専門の部署を巻き込みながら動いていきたいです。

この取り組みを通し、社員それぞれが、自身のライフステージに合わせて希望を持って働けるようにしていきたいです。

そのためには、「自分が何を選択したいか」を言える環境が必要ですね。一人ひとりが主体的に働き方を決められるよう、もっともっと風通しが良い組織を作っていきたいと思います。