【前編】節約志向だったサイボウズの情シスが変わったきっかけは?ー在宅用PC支給、キーボード選び放題の裏側を語る
4月に公開された、サイボウズの情シスにフォーカスした記事。サイボウズの情シスが実践する、「在宅用PC支給」、「キーボードも選び放題」という方針が注目を集めました。
そんな反響をもとに開催されたイベント「サイボウズの情シス直伝!キントーンをフル活用したヘルプデスク業務勉強会」は、瞬く間に申し込みが殺到。あっという間に満席・キャンセル待ちに。
そこで語られたのが、サイボウズのクラウド事業の躍進を支えた「チームワークインフラ」の存在です。今回はじめて公開された“100人100通りの働き方”を支える仕組みと、その背景にある想いついてご紹介します。
サイボウズの情シスは、100人100通りの働き方をシステムで支える
青木哲朗:サイボウズ情報システム部の青木です。私の方からサイボウズの情報システム部について簡単にお話させていただきます。
まずは、情報システム部のミッションについて。
いきなり英語が出てきますが、“To create IT systems for the best work of everyone anytime, anywhere” サイボウズが掲げる「100人いたら100通りの働き方」をシステム面から支えるのが情報システム部の役割になります。
チーム構成は、部長を含めて全体で17名体制。その中でシスアド、サービスデスク、システム企画、これら3つのチームで構成されています。
僕と鶴村が所属しているのが真ん中の「サービスデスク」です。10名+兼務8名なので割と人数が多い印象を持たれている方が多いかと思いますが、海外拠点も含めたサポートになりますので、こういった人数になっています。
サービスデスクの主な業務は、社員のPCやスマホのセットアップ、入社時・退職時のシステムのアカウント発行・停止、ヘルプデスクと呼ばれる日々の業務中に発生したトラブルの窓口対応が中心です。
サービスデスクのメンバーは各地に点在しています。国内では東京に7名、それ以外に大阪、松山に兼務で1名ずついます。
海外には、中国の上海オフィスに3名、ベトナムのホーチミンに3名。アメリカのサンフランシスコには全部で3名いて、うち1名が産休中、現状では実質2名という状況です。
PCは社員一人あたり平均2台支給。希望に合わせてデバイスが選択可能
サイボウズ式の中で、こんな記事がありましたね。
参考:「サイボウズはなぜ在宅勤務用PCまで支給するんですか?」情シスに聞いたら、理念へのこだわりがすごかった
現在、選べるPCは表の通りです。順番に説明します。
一番左がデスクトップPCで、機種はDELLのOptiplex 7060、メモリは32GBです。以降がノートPCで、まずはLet’s Note。こちらは軽さを重視する営業の方によく選ばれています。その隣りのSurface Laptopは、タッチスクリーンが好きな人に使われています。DELLのLatitudeも使われていますね。
Macを使いたい人も多いので、標準構成のMacBook Proとエンジニア向けで16GBのメモリを積んだ開発用の15インチMacBook Pro、これら6つ中から選んで使ってもらってています。
一般職の人だとノートPCだけを使っている人もいれば、必要に応じてデスクトップPCを組み合わせて使う人もいます。スライドの左側に書いてありますが、開発のエンジニアであればデスクトップPCとノートPCを併用したり、あるいは開発用のMacBook Pro1台で済ます人もいます。
社内のPC保有台数は多いですね。数でいうと大体1,900台くらいです。社員は800人ほどですので、平均すると1人につき2台以上は持っている計算になります。
スマホも会社で支給しています。種類もiPhoneやAndroidを含め様々ですが、数にすると全体で1,000台ほど保有しています。
こちらも記事で紹介されていましたが、サイボウズでは生産性や効率を上げることを目的にマウスやキーボードも好きなものを購入することができます。
よく名前が挙がるのは、HHKB(ハッピーハッキングキーボード)ですね。
極めつけは、ErgoDox(エルゴドックス)というキーボードが左右に別れているタイプで、手を開いて使用するため肩こりしづらい効果があるそうです。
様々ありますが、自分が仕事をしやすい環境を整えることを目的に、基本的にはすべて許可しています。
会社用とは別に在宅用PCも支給!5KディスプレイもOK!でも、なんでそこまで?
サイボウズでは在宅勤務を認めていることもあり、子どもがいる社員の場合、子どもが熱を出して急きょ在宅勤務に切り替えるケースがあります。
一方で、そんな不測の事態に備えて日頃からノートPCを持ち運びするのは負担になりますよね。紛失の恐れや水に濡らして壊してしまうリスクもあります。
それを踏まえ、サイボウズでは会社用と在宅用に別々でPCを配布するようにしました。基本は1人に1台ノートPCを支給していますが、3年ほど前からは在宅勤務用にもう1台ずつPCを支給できるようにしています。
先ほど紹介した記事が公開されて以降、社員は次々にSNS上で自慢をし始めたんです。
こちらの社員は、仕事でMacもWindowsも両方必要で、さらに在宅用のPCも使うということで3台利用しています。
また、モバイルを開発するチームは、5Kのディスプレイを使っています。決して安い金額ではありませんが、こちらのツイートに書かれているように“生産性が倍増した”のであれば、手配してよかったなと思っています。
こちらの野水さんは、MacBook ProにmacOSとWindowsの両方を入れる特殊な使い方をされています。要は「両方のOSを使いたいけれど、2台持ちはしたくない」ことから、Boot Campを使用してデュアルブートできるようにしているわけですね。
もともと映像編集の仕事をすることも多い方なので、映像編集用のハイスペックなデスクトップにNVIDIAのGeForceという強力なGPUを積んでいるPCを使用されています。これも結構いい値段します(笑)。
そこへさらに実は4Kモニターをつけているので若干やり過ぎな感もあるんですが、仕事の生産性にも直結する部分ですので、こういったPCでも許可して支給しています。
「なんでそこまでするの?」とみなさん思うと思うんですが、すべてはこれです。
企業理念ですね。
この2つの理念がある中で、僕たち情報システム部としては、「チームワークあふれる『会社』を創る」ことにコミットしています。
理念への共感、多様な個性を重視、公明正大、自立と議論、これらを大事にして活動しているからこそ、こういった対応になるわけですね。
節約志向だった情シスが変わったきっかけ
しかし、この情報システム部のお金の使い方・取り組みが、昔からこのとおりだったかというと、決してそうではありません。
10年以上前はとても離職率が高い状況が続いていました。特に2005年あたりは離職率が28%もあり、どんどん人が辞めていました。
給与の引き上げなども行いましたが、なかなか離職率は改善されませんでした。当時の情シスは「とにかく節約」の方針でした。そんな状況を大きく変えるべく、まず人事制度の改革から着手していきました。
社員一人ひとりに希望の働き方をヒアリングしていくと、それぞれに想いがありました。そこから行き着いたのが「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という考え方です。
従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬の実現を目指しました。
「公平性よりも個性を重んじる」のがサイボウズの考え方で、多様性がないと考えるダイバーシティ経営とは逆に、すでに十分多様なメンバーが集っているという考えのもと、人事制度を改革していきました。
我々がよく言っている「チームワークインフラ」は、「ツール」「制度」「風土」の3つの柱で成り立っていると考えています。
ここでいう「制度」は、いわゆる人事制度のことです。働く時間を選択できる、リモートワークOK、副業OK、育児休暇も最大6年間とれますとか、そういったものです。こちらの部分の設計は人事が担当しています。
次に「ツール」、これが僕たち情シスが担当している部分ですね。
上から順に、会議やセミナーを行う場であるリアルオフィス、ビデオ会議のシステムもそうですし、情報共有ツール、グループウェアも含まれます。あとはWeb会議、どこでもビデオ会議に参加できるように専用の機材を入れています。
「制度」と「ツール」これらの両軸も大事ですが、これだけではチームワークとして不十分です。加えて、「風土」があることが重要なんですね。
サイボウズが大事にしている、多様性、公明正大、あとは議論のところに含まれる質問責任、説明責任ですね。この風土の部分を会社として、とても重要視しています。
これら3つがうまく回ることで、チームワークインフラとしてすごく大きな力を発揮すると考えています。
ここで再び、我々情シスのミッションについて。
僕たち情報システム部は、2014年にcybozu.comを運用する運用本部というチームを設立し、そのタイミングで部の方針を転換しました。
それが先ほどお伝えしたミッションですね。「誰でも、いつでも、どこでも、最高の仕事ができる情報システムを作る」。このミッションを掲げて日々仕事をしています。
サイボウズでは、このミッションの遂行に向けて戦略的に投資を行っています。
「はっきり言って、メモリ32GBのデスクトップPCってムダじゃないの?」と思う方もいると思うんですが、バラバラのスペックではなく、高スペックのPCに揃えて支給をすることで管理側の手間が省けるといった意図もあります。
また、各会議室にはビデオ会議用のシステムが備わっています。これによって、どの会議室からも簡単に会議へ参加することができますし、在宅勤務中に自宅からでも参加できます。
正直、費用はかかっています。が、先ほどのお伝えした「チームインフラ」を整えるためにも、多様な働き方を支えるためにも、必要だと考え今は積極的に投資をしています。
チームインフラの確立=業績向上、離職率低下
開発用のMacBook Proは16GBなので、僕は必ず「なぜ、そんなスペックが必要なんですか?」と聞くようにしています。これが質問責任です。
それに対して、利用者側にも説明責任があるので、「こういう業務で、こういう理由で、どうしても大容量のメモリが必要なんです。メモリが増えることによって仕事の効率が全然違うのでお願いします」という回答が届きます。これが説明責任ですね。
とまあ、そんなことをやっていくとですね、あとから結果が付いてきます。
2011年にcybozu.comというクラウドサービスを開始しました。それ以降、グラフのとおり大幅に業績が上向き、離職率も低下しています。
当時はクラウド型のサービスが注目されやすい時代背景もありましたが、その裏では、「制度」「ツール」「風土」が揃ったことで生まれた良い循環が、サイボウズのこの躍進に大きく貢献したと考えています。