サイボウズ ソーシャルデザインラボは、さまざまな価値観を持つ人々が安心して暮らせる社会を目指し、サイボウズ流のチームワークに基づいた社会実験(育苗実験)を行っています。2025年2月には、不登校・行き渋りの子どもがいる親を対象にインタビュー調査を実施しました。
お話いただいた具体的な不登校・行き渋りの時期のご経験について、ご本人たちの御了承をいただき経験談として掲載させていただくこととなりました。全6本を順次UPしてまいります。
最初にご紹介するのは、都内在住の女性・Aさんのお話です。
小学6年生のお子さんがいます。現在は学校に通っていますが、小学5年生から約1年間、学校に行かない時期が続いていました。この不登校期間に大事な気づきを得たAさんに、当時を振り返ってお話を聞かせていただきました。
「疲れた」「もう少し寝たい」から始まった不登校
Aさんのお子さんに不登校の兆しが見られたのは小学5年生の頃。『すごく疲れている』『もう少し寝たい』と話し、朝起きることができなくなったといいます。
「中学受験を予定していたので、高学年になると忙しくなりました。塾から帰ってくるのも夜遅く、帰ってきてからも勉強する生活が続いていました。一番休みがちだったのは小学5年生の時です。6年生の秋くらいからは学校に通うようにはなったのですが、月1、2回は『行きたくない』っていうのは続きましたね。」
お子さんには将来の夢があり、その実現のために中学受験を決めたというAさん一家。
塾や学校の勉強に加え、習い事も掛け持ちしており、忙しい毎日をを送っていました。
Aさんのお子さんが通う学校ではオンラインで授業を受けられる仕組みがあり、学校に行けない日には自宅からパソコンを繋いで授業を受けるようになりました。
オンラインでも授業を受けていれば出席扱いになっていたといいますが、その様子を見ていたAさんは複雑な心境だったといいます。
「オンラインで授業を受けることはできたんですが、それは座学だけ。音楽や体育などは学校に行かないとできないので、その間は自宅で自由に過ごすことになります。体の疲れからか、どうしてもダラダラしてしまっているのを見ると、やはり気になりましたし、何より生活リズムの乱れが心配でした。授業が始まるギリギリまで寝ていて、受けられない授業の時は自由時間。私自身『学校に行くべきだ』という考えを持っているので、今後のことを考えると『どうなってしまうんだろう』と心配になりました。」
「そんなに大事なの?」 ハッとした子どもの同級生の一言
「疲れている」「もう少し寝たい」などの言葉はあったものの、学校を休むようになった明確な理由について本人からは聞いていないと話すAさん。
その理由については、ある日、思いもよらぬ形で知ることになりました。
「偶然会った、子どものクラスの子の言葉がきっかけでした。学校のあとすぐ、塾のテストがある日があったんです。なのでその日は『学校が終わったら走って帰ってきてね』と約束していました。だけど、なかなか帰ってこなくて。しびれを切らして迎えに行ったんです。その途中で偶然、同じクラスのお友達に会いました。話を聞いてみると、そのお友達から『さっき歩いてるところ見たよ』と言われて、つい私は『今日忙しいのに......』ってこぼしてしまいました。すると、その子に聞かれたんです。『毎日塾ばっかりで嫌だって言ってたよ。もっと遊びたいって言ってたけど、塾ってそんなに行かなきゃいけないの?受験ってそんなに大事なの?』って。」
思いもよらぬタイミングで、お子さんが抱えていた思いを知ったAさん。
その時はとても驚いてしまったようですが、これが大きな気づきになったといいます。
「あんまりそういうことって、子どもから言ってこなかったので......自分では気づきませんでした。そんなふうに思ってたんだ、と。でもそうだよなぁって、言われてハッとしましたね。」
親子で相談し、習い事の頻度を減らす
その日、少し遅れて帰ってきたお子さんと話をしてみたというAさん。
毎日びっしり詰め込まれた習い事を見直し、何を辞め、何を続けるか話し合いました。
「子どもと相談して2つくらい辞めて、家でゆっくりできる日を作ってみることにしました。正直なところ、私としては『辞めてほしくないなあ』という気持ちもあったのですが、思い切って休息日を作ると本人の心が少し落ち着いたようでした。お友達と遊んで帰ってくる日には機嫌も良くなったし、学校の宿題も自分からするようになりました。」
続ける習い事を絞ったことで生活にメリハリが生まれたAさん一家。毎日休む時間がなく疲れ切っていたお子さんの表情も明るくなったように感じたと言います。
また、Aさんが一番心配していた乱れた生活リズムも徐々に整ってきたようです。
一方、中学受験が目の前に迫った中での決断は、Aさん夫婦にとって勇気のいるものだったと話します。
オンとオフを作ってあげたいというAさんに対し、夫は『受験が終わるまでは頑張ったほうがいい』と考えており、意見が合わないこともあったようです。
「夫は『遊ばせたいのは山々だけど、もっとやるべきことがある。成績が上がってないのに遊んでも仕方ない』という感じでした。私も夫が言うことはわかるんですが、本人のやる気を起こさせるためには、やっぱりリフレッシュできる時間も大事だなっていうのもあって。なので、遊べる日を決めて、夫が帰ってくるまでにはもう全部お風呂とか終わらせて、机に向かうようにして。遊ぶけど、ちゃんと自分のこともやるっていうメリハリをつけるように約束をしました。」
お子さん自身にもその夫婦の考えを伝えたというAさん。
続けると決めたことはしっかりと取り組むよう話し、この冬、受験を無事終えることができました。
卒業まであと少し 子どもの声を聞いて向き合っていきたい
春から中学生。受験も無事に終わったことで、「今は家の中が明るいんです」とAさんは笑顔で話していました。
お子さんは、友達と過ごせるあと少しの小学校生活を楽しむため、学校に通っているそうです。
不登校が続いていた時期を振り返り、Aさん自身も、もっと子どもの声を聞いて向き合っていきたいと考えています。