サイボウズの楽校は設立できた、しかし
Vol.1でお伝えした通り(【Vol.1】なぜIT企業のサイボウズが「学校」を作ったのか?〜理想と事業性のリアル〜)
サイボウズの楽校は、東京都吉祥寺を拠点とする小学生向けフリースクールとして立ち上がりました。
子どもたちが集まり、「わたしも、あなたも楽しい」場が少しずつ形になっていく。
思い描いていた理想の風景は、少しずつ現実になり始めていました。
しかし、実際に運営を始めてみると、すぐに別の壁にぶつかります。
それは、「運営の大変さ」でした。日々の活動の裏では、記録、連絡、共有、報告など、やるべきことが次々と発生します。
少人数の体制では、それらを回すだけでも手一杯です。
「やるべきことは分かっているけど、時間が足りない」
楽校の運営は、授業をすること以上に、それを支える日々の仕事の積み重ねが重要でした。本記事では、サイボウズの楽校が直面した運営のリアルと、その課題をどのように乗り越えようとしているのかを具体的にお伝えします。
運営の大変さは"見えにくい仕事"にある

サイボウズの楽校は、小学生向けのフリースクールとして、全員が楽しい場を作る力やチームワークを育むことを目指しています。
その一方で、日々の運営には多くの仕事があります。
行政への報告、保護者とのやり取り、在籍校との連携、日々の記録、出欠管理、イベントの準備や運営、収支の確認。
スタッフ4名で、6〜10名の子どもたちの対応をしながら、これらの業務をすべてこなす必要があります。
一つひとつは小さな業務でも、積み重なることで負担が大きくなります。
その結果、スタッフがどんどん疲弊していきました。
課題1:多くの事務作業と報告の負担
フリースクールでは、在籍校や行政への報告書の作成が求められます。
その一つが出席認定です。保護者が望み、学校長が認めれば、フリースクールでの活動が「出席」として扱われます。そのため、フリースクールは在籍校に毎月の活動報告を作成・送付しなければなりません。
報告書の中心となるのが、スタッフが毎日作成している時間割データです。「国語 俳句の授業」「算数 長さの授業」といったように、子どもにわかりやすい一言で書かれています。
開校当初の業務の流れはこうです。その月の時間割データをExcelに貼り付け、欠席日分を削除して整形し、PDFに変換したうえで、学校ごとにメールで送付します。ただ、元データが時間割である以上、内容はどうしてもシンプルになってしまいます。
担任の先生は、自分のクラスの子どもがどこでどんな学びをしているか、きっと気にかけているはずです。だからこそ、この1か月でどんなことを学び、何ができるようになったかを、その時間割データに加えて、毎月子どもごとに文章にまとめ、添付していました。
この作業は子どもの人数分行うため、毎月初めに約3時間ほどかかっていました。
解決策:AIで報告作業を大幅に短縮


この課題を解決したのが、kintoneとkintone AIを組み合わせた仕組みです。
「授業内容をもっと丁寧に伝えたい。でも、手間はできるだけ減らしたい。」そんなジレンマに向き合うなかで目をつけたのが、スタッフが毎日入力している日報データです。
日報には、その日出席した子どもの情報、各授業の内容、子どもの様子が丁寧に記録されています。主に保護者向けに毎日スタッフが書いているもので、現場のリアルな情報が詰まっています。
kintone AIを使うことで、この日報データを読み取り、子どもごと・日付ごとに活動内容を自動で要約・整形できるようになりました。これにより、時間割データの抽出から出欠との突合、Excelでの整形、メール送付まで、一連の作業が大きく簡略化されました。
1か月の学びをまとめる文章は、引き続き楽校長が書いています。それでも、作業時間は半分以下になりました。
さらに、もとになる情報が日報――日々の細かな観察記録――であるため、単なる事務的な報告ではなく、授業内容や子どもの様子が具体的に伝わる内容になっています。
また、kintone AIは入力されたデータをAIの学習に利用しないため、個人情報を扱う場面でも安心して使えます。
加えて、kintone AI以外の生成AIとkintoneのデータを組み合わせることで、東京都への提出書類(Excel形式)の作成も効率化が進んでいます。現場の負担を減らしながら、報告の質を高める。そんな取り組みが、少しずつ形になってきています。
課題2:情報共有の難しさと連携のしづらさ
スクール運営では、実に多様な情報を扱います。時間割、保護者とのやり取り、スタッフ間の連絡、シフト管理、会議の議事録、子どもの学びの記録、お問い合わせ管理、名簿管理、イベントの出欠管理――挙げればきりがありません。
さらに、保護者・スタッフ・学校・ゲスト講師など、関わる人が増えるほど情報共有は複雑になります。個別のやり取りが増え、「誰がどこまで知っているのかわからない」という状況が生まれてしまいます。
解決策:kintoneで情報を一つにまとめる

kintoneを入口にして、必要な情報にまとめてたどり着けるようにしています。
用途ごとにスペース(部屋)とアプリ(データベース)を分け、アクセス権を細かく設定することで、保護者・スタッフ・子ども・ゲスト講師それぞれが、必要な情報だけを安全に見られる環境を整えています。
たとえば時間割は全員が閲覧できますが、保護者が個別に相談を入力できる「ひみつの相談窓口」は登録した保護者本人と運営チームだけが閲覧できるよう、アクセス権を限定しています。
欠席連絡は保護者にkintoneに直接入力してもらうことで、情報が1対1のやり取りにならず、必要なメンバーにリアルタイムで共有されます。また、電話で保護者と話した場合も、通話後にスタッフが「保護者とのおしゃべり」アプリに記録することで、他のメンバーと共有し、後から振り返ることもできます。口頭だけで終わらず記録として残す仕組みとしています。
将来的には、在籍校の教員が子どもの様子をいつでも確認できる仕組みも整えていきたいと考えています。家庭・フリースクール・在籍校が同じ情報をもとに、近い目線で動ける環境になれば、連携はさらに深まるはずです。
課題3:入学手続きの手間
入学までのプロセスも、kintoneで整えています。
入学までの流れは一般的に以下のようになります。
問い合わせを受けて日程を調整し、保護者に説明を実施。授業体験を経て入学を希望された後、紙の生徒情報記入フォームに記入してもらい、その内容をPCのシートに手で転記する。フォーム用のエクセルが大量に作られ、フォルダに保管されている。
解決策:Webフォームとkintoneで、受付から入学までをシンプルに

サイボウズの楽校では、問い合わせから入学までの手続きを一貫してデジタル化しています。
具体的にはkintoneと連携するWebフォームを作成しています。
保護者にオンラインで入力いただくだけで自動的に楽校のシステムに記録されます。紙への記入や郵送などのお手間は一切かかりません。
説明会の日程や体験日も楽校内で共有されているため、「今日は体験の子が来る」ということが時間割の画面を見るだけでスタッフがすぐに把握できます。問い合わせの経緯からその後のやり取り、入学までの流れが一つの記録としてまとめられています。問い合わせのプロセス全体が見通せるため、引継ぎや対応漏れの心配がありません。
書類の作成・確認・発送といった細かな事務作業がない分、入学前後の丁寧な対応に時間を使えるようになっています。
仕事を減らすのではなく、向き合う時間を増やす
これらの取り組みで変わったのは、事務作業の手間だけではありません。
運営に必要な情報が整理され、流れが見えやすくなったことで、日々の判断や連携がしやすくなってきました。
フリースクールでは、授業の外側にも多くの対応が発生します。
報告書の作成、保護者との連絡、在籍校とのやり取り、問い合わせ対応、入学準備。
こうした仕事が場当たり的に積み重なると、現場はどうしても慌ただしくなります。
今回進めてきたのは、それぞれの業務をバラバラに処理するのではなく、運営全体を無理なく回せる形に整えることでした。
その結果、必要な確認や引き継ぎがしやすくなり、スタッフ同士が同じ情報をもとに動ける場面が増えてきています。
そうした変化は、子どもや保護者への関わり方にもつながっています。
日々の様子をより具体的に伝えたり、小さな変化をチームで共有したりしやすくなったことで、支える側の動きにも少しずつ厚みが出てきました。
サイボウズの楽校が大切にしている「チームワーク」は、こうした運営の積み重ねによって支えられています。

次回、企業のアセットを子どもの居場所へと変えるために
フリースクールの継続性を左右する大きな要素が、「場所」と「コスト」です。
もし企業が持つ空きスペースや遊休資産を、地域の子どもの居場所へ転換できたらどうなるのか。社会貢献と事業性の両立を考えるヒントを、具体的にお伝えします。
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