はじめに:企業理念の原点
「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念は、起業当初から手がけてきたグループウェア事業から生まれています。ITが普及する前は、限られた人だけが情報を握り、トップが指示を出すのが組織の常識でした。しかしグループウェアは、情報をオープンに共有することで、誰もがそれについて考え、行動し、意見やアイデアを発信できる環境をつくり出します。こうして生まれる透明性が、組織全体のチームワークを強め、一人ひとりが主体的に動くための土台となる。そこに大きな可能性を見出したのです。
世の中には、楽しく働けていない人がまだまだ多く、その背景には「組織のあり方」が影響しているケースが少なくありません。情報が共有されず、対話が不足している組織では、一人ひとりが力を発揮しにくくなってしまいます。メンバー全員が想いや考えをオープンに共有し、信頼し合いながら対話できる組織が増えれば、もっと社会は豊かになるのではないか。そんな想いで、この企業理念を掲げました。
多様な人材をただ集めるだけでは成果は出ない──個性を活かすマッチングの力
企業理念を日々の組織運営に落とし込むために、私たちが育んできたのが「5つの文化」です。「理想への共感」「多様な個性の重視」「公明正大」「自主自律」「対話と議論」。この文化は日々の積み重ねによって保たれるものであり、さらに組織文化を育てるためには社員一人ひとりの意識と行動が大切です。
かつてサイボウズは「100人100通りの働き方」という言葉を掲げていました。誰もが自分らしいスタイルで働けるように。その考え方は、働き方改革の象徴として多くの共感を集めました。しかし私たちが次に気づいたのは、「多様性をただ受け入れるだけでは十分ではない」ということです。組織にとってプラスにならない個性まで無条件に尊重してしまうと、成果につながらない。そこで、「100人100通りのマッチング」という言葉にアップデートさせました。メンバーは「やりたい」という意思を示し、チームにどのように貢献できるかを考え、マネージャーが期待を伝える。それが合致した先で、チームは力を発揮します。多様な人材が集まるだけでは、必ずしも強いチームにはなりません。大切なのは、それぞれの個性や考えを組み合わせ、互いを補える関係をつくること。違いを活かし合えるからこそ、チームとしての力は何倍にも広がります。
本編:サイボウズの挑戦と未来
事業面での挑戦の余地も尽きません。
これまで、kintoneは中小企業や一部門への導入が中心でしたが、今後は大企業での全社導入や、自治体へのさらなる拡大を推進していきます。特に自治体は人手不足が深刻です。その課題に対応するためにも、情報を共有し効率的にチームワークを高めていける仕組みとして、kintoneの役割はますます重要になってきています。こうした行政との連携は庁内の業務効率化にとどまらず、住民が主体となる「地域全体のチームワーク」を育むことにもつながるのです。
垣根を越えたチームワークこそが、サイボウズの戦い方
チームワーク基盤サービスはグローバル市場であり、競争相手はサイボウズの1,000倍もある巨大な企業たちです。圧倒的な資本力や人材を持つ企業との競争は、背筋が凍るような緊張感があります。
それでもこの荒波をかいくぐって生き延びてきた中で、自分たちなりの生存戦略が少しずつ見えてきました。それが「エコシステム型」の戦い方です。巨大な企業がすべてを自前で開発・販売するのに対し、私たちはコア機能に集中し、仲間を増やして販売や付加機能を広げていく戦略を選びました。現在は1000社以上のパートナーが国内外で活動し、今後はその輪をさらに拡大していく予定です。
近年では、顧客自身がパートナーとなり、当社のサービスを拡販してくれる事例も生まれています。とあるブライダル企業では、kintoneを活用して自社の業務改善を進め、その知見をもとに同業他社へのIT支援を始めました。現場を知り尽くした当事者だからこそ説得力があり、結果として業界全体へと波及していく。顧客が仲間となり輪を広げていく。まさに会社を越えたチームワークですよね。さまざまな地域の多様なパートナーと、「みんなで頑張ろう!」と思える、このエコシステムを創るのが本当に面白いんです。
私たちの企業理念は『チームワークあふれる社会を創る』ですから、1億人規模の日本の市場に安住せず、80億人が暮らす世界で通用するプラットフォームを目指していかなければなりません。北米・南米、中華圏、東南アジアでの事業は徐々に拡大していますが、まだまだこれからが本番です。海外での成長戦略も国内と同じく、「チームワーク」を大切にしていきます。多様なパートナーや顧客と協力し、その輪を広げながら市場を切り拓いていく。これこそがサイボウズの戦い方です。
人とAIが共創する社会のインフラにkintoneを
さらに大きな挑戦が、サイボウズ製品とAIの共存です。
現在、生成AIは一般的な知識には強い一方で、企業固有の情報にはアクセスできません。そこで、社内での活用を進めるには、社内マニュアルや営業情報などのナレッジをAIに学習させる必要があります。たとえば、kintoneに蓄積された情報をAIに連携させることで、「この案件の最新状況は?」「有給の申請方法は?」といった質問にも、回答できるようになります。
次のステップは、こうした会社専用の生成AIがチームをファシリテートする未来です。部署間の会話不足や業務フローの滞りを検知して改善を促す。リーダーがいなくても議論を整理し、弱いチームを強くしていくことも可能になるでしょう。将来は、経営会議そのものにAIが同席し、主体的に意見を述べるようになるかもしれません。人とAIが境目なくコラボレーションする社会。そのインフラの構築に、kintoneが貢献できると確信しています。
直近の取り組み
他にも、チームワークを広く世に伝えるための出版事業や、既存の教育のあり方の変革を目指す学校運営、サイボウズ流のチームワークを落とし込んだプロバスケットボールチームの経営など、グループウェア事業にとどまらず、多様なフィールドに踏み出しています。
おわりに:変化や挑戦を楽しめる方と、未来を共にしたい
創業以来、売上が伸び、利益も出るようになりました。正直、やろうと思えば楽もできるでしょう。しかし、私たちが集まった理由は安定した環境に甘んじるためではありません。「チームワークあふれる社会を創る」という理想に向けては道半ばどころか、ようやくスタートラインに立ったばかりと言えるでしょう。ここからが、本当の勝負です。
私たちが挑んでいるのは、「グローバル共通のプラットフォーム」の領域です。勝てば世界に広がり、負ければ一瞬で淘汰される厳しい土俵で戦っています。グローバル市場で巨大企業と渡り合うスリルや、新規事業を切り拓く手応え。経営に直接関わり、制度や文化をつくり、社会そのものに影響を与える実感。これらは、今からサイボウズに加わる人だけが味わえる醍醐味です。
私たちが求めるのは、「チームワークあふれる社会を創る」という理想に共感し、それを仲間と共に実現する意志と行動力です。専門性を突き詰めるスペシャリストでも、幅広く動けるゼネラリストでも構いません。大切なのは、自分らしさを持ちながらも、仲間とともに理想を実現しようとする姿勢です。ただし、共感だけでは足りません。理想の実現のために、学び続け、やりきり、新しい挑戦を積み重ねることが不可欠です。一つの考えにこだわりすぎることなく、試行の過程や変化を楽しんでもらいたい。これからもサイボウズがどんどん変わっていくことを、「面白い」と思ってもらいたいですね。
2025年、私たちは5つの文化に、「果敢に挑む」を加えました。あえて明文化したのは、もっと高い理想に向けて歩みを止めない組織でありたいからです。世界を変える覚悟を持って、一緒に走ってくれる人を歓迎します。
「チームワークあふれる社会を創る」ために、サイボウズは走り続けます。あなたも一緒に挑戦を重ね、未来を切り拓いていきましょう。
サイボウズ青野から、会社の話をもっと聞きたい
サイボウズ社長の青野が、皆様からのご質問にお答えするイベント、 『Cybozu Top Seminar』の動画です。
「サイボウズの目指す世界とは」「大切にしている理念はどのようにつくられたのか」「社長の雰囲気とは」についてお話ししています。
サイボウズに少しでも興味を持ってくださった方はぜひご覧ください!
プロフィール
青野 慶久
代表取締役社長
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。
社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。
総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやSAJ(一般社団法人ソフトウェア協会)副会長などを歴任。
著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。